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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
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ぼくの伯父さん


今日からおひさまゆうびん舎で夏葉社7周年を記念して夏葉社フェアが始まります。
その夏葉社の最新刊『移動図書館 ひまわり号』(前川恒雄著)を昨夜読了しました。著者の前川さんといっしょにあるときは喜んだり、あるときは悲しんだり、そしてあるときは腹が立ったりしながらいろんなことを考えさせられました。
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上に貼ったのは本の最初に掲載されていた移動自動車ひまわり号の写真ですが、この写真やタイトルから想像されるようなほのぼのとした話ばかりではありません。

いちばん心に突き刺さったエピソードは、ある団地で、移動図書館を利用して毎回本を借りに来ていた17、8歳の少女の話。彼女は近くの食堂で住込みのウェイトレスをしていたとのこと。ということは地方からやって来ていた子なのかもしれません。その彼女が、ある日、前川さんに貸出券を差し出してこう言います。

「もう借りられないから、これ返します」
「どうしたの、どこかへ引っ越すの」
「いいえ、店の主人が本を読んだらいかんって言うの」
 あきらめきった顔をして帰ってゆく後ろ姿が、私の胸をしめつけた。その店に行って、主人にかけあおうかと思った。だが、私は何もしなかった。その子の立場が悪くなるのではないかと思ったのだが、私に勇気がなかったからかもしれない。今でも、あのときのことを思いだすと、後悔と憤りで叫び出したくなる。あの子はもう中年だろうか、幸せになっているだろうか。
 貧しく地位もないあの子のような若者たちが何かを求め、本を読もうとするのを止める大人たちがいる。自分は学ばないで、学ぶ人を警戒する小権力者たちがいる。日野のある市会議員が私に、冗談めかしてこう言った。
「みんなをあんまり賢くしてもらうと困るんだよなあ」
 人々が賢くなり知識を持つことを恐れる者たちが、図書館づくりを陰から妨害する。自分の貧しい精神の枠内で人々を指導しようとする者たちが、図書館の発展を喜ばず、人々を図書館から遠ざける。

悲しさと怒りが同時に込み上げてくるエピソードです。前川さんがある市会議員言われたという「みんなをあんまり賢くしてもらうと困るんだよなあ」という言葉が心にひっかかったまま本を読み終えたら、最後の「復刊に際して」で、現在の為政者のしていること(本を読みながら、ずっと考えていたことでした)に触れた後で、前川さんが再びこの言葉を引用されていました。

話は変わりますが、この本を読んで最もうれしかった話を。
移動図書館を始めたときに、車が来たことがわかるようにテーマ音楽を流すテープレコーダーを車に積み込むことにしたんですね。そこでテーマ音楽に選ばれたのがぼくの大好きな「ぼくの伯父さん」。素晴らしい。ジャック・タチの有名な映画のテーマソングですね。



この曲が聴こえてくると、子供たちが集まってくるという風景を想像するだけでたまらないものがあります。考えたくはないけど、これから本をほとんど読まない”あんまり賢くない”人がどんどん増えてきて、世の中が再びいつかの時代のようになってきたら、この「ぼくの伯父さん」を流した車があちこちで子供たちを呼び集めて、子供たちを安全なところに運んでいってほしいですね。「ハーメルンの笛吹き男」みたいに。

ところで「ぼくの伯父さん」はあの細野晴臣さんも大好きな曲。『MUSIC MAGAGINE』の2007年11月号に掲載された「細野晴臣 自身が選ぶルーツの50曲」の1曲目に選んでいるのがこの「ぼくの伯父さん」でした。
こんなコメントが書かれています。

映画を見た後、親に「あれ買って」と言って買ってもらった最初のシングル盤がこのフランス映画のテーマ曲。僕にとって原点のような音楽。家に帰ってよく見たら、中島潤という人がうたっている日本盤だったんだけど(笑)。子供だったから、映画はストーリーより、のんびりした感じや色彩が印象的だった。音楽も明るいメロディやサウンドのイントロで、のんびりしてるところがいいと思った。自分にはのんびりした音楽が合っていると。映画はそれが最初じゃなくて、その前にも『白雪姫』とか連れて行ってもらった気がするけど、その音楽は家に叔父さんのSPがあった。「ぼくの伯父さん」は自分で欲しいと思った音楽だから、よけい印象に残ってるんだろうね。20年くらい前にサントラ盤を手に入れた。

その中島潤さんの歌う「ぼくの伯父さん」は2年程前に細野さんがパーソナリティを務めるDaisy Holidayというラジオ番組でかかったようです。こんな写真がありました。
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番組のサイトにはアシスタントの岡田崇さんとのこんなやりとりが載っていました。

岡田:この間までジャック・タチ映画祭やってまして。"ぼくの伯父さん"の細野さんが一番最初に買ったという、中島潤さん……
細野:あっ!あったの? ウレシイ~~ッ! ぼくが見つけられなかったやつだ(笑)すんごい。ホント手に入らなかったんだ、これ。
岡田: ぼくもずーと探してて、ようやく……
細野: すごいね~、何の力なんだそれは?(笑)小学校6年の時に『ぼくの伯父さん』観て、帰りに親に買ってもらったシングルがこれだからね。今聴くといいわ、やっぱり。歌詞が好き。作詞は薩摩忠さん、アレンジが平岡精二さん。バッキングは平岡精二クインテット。ヴィブラホン。

どうやら細野さんは小6のときに買ってもらったシングル盤をなくしていたようです。で、いろいろ探していたけど見つからなかったら岡田さんが探してきたようです。
ちょっとチェックしてみたら中島潤さんの歌った「ぼくの伯父さん」は現在、どこのショップにもオークションにも存在しないようです。かなりの稀少盤のようです。
そういえば数年前に出た『tati sonorama!』というCDに、確か日本人が歌うものがあったなと思ってチェックしたら、それは中島潤さんのものではなく高英男という人が歌ったものでした。過去のオークションに出品されていた中島さんのレコードの歌詞カードと比べてみたら、歌詞が全然違っていました。細野さんが「歌詞が好き」と書いているように中島潤さんが歌ったバージョンの方が歌詞がいいですね。作詞、というか訳詞をされた薩摩忠さんはアンデルセンやグリム童話など海外の児童文学の翻訳をされている方のようです。なるほど。

驚いたのは、この2か月後くらいに開かれた「したまちコメディ映画祭 in 台東」でのいとうせいこうさんとの対談イベントで「ぼくの伯父さん」を歌ったようで、それがYouTubeにアップされていました。



細野さん、岡田さんからレコードを借りて練習されたんでしょうね。会場にいた人が録音したようなのでやや聴き取りにくいですが、でもこれは超貴重。ネットに上がっていた歌詞カードでは確認しづらかった歌詞もほぼきちんと確認できました。
一応その歌詞を。歌詞カードでは「生活」のところに「くらし」というルビがふられていますが細野さんは「せいかつ」と歌っていますね。

やさしいぼくの伯父さん
背高のっぽの伯父さん
天気の良い日も雨傘 大事に持って歩く
気のいいぼくの伯父さん
背高のっぽの伯父さん
いつでもパイプをくわえた
伯父さん大好きさ

下町のアパートで屋根裏の生活
朝寝坊で夜更かしして暮らす
野良犬やら野良猫なら
みな友達だけど
金もうけや自動車など
縁のないこと

 ぼくの伯父さん
 呑気な上あわてものだから
 年中しくじり
 お嫁さんの来手もない

けれども、ぼくの伯父さん
それには一向平気
毎日ぼくと一緒に楽しく遊んでくれる
気のいいぼくの伯父さん
背高のっぽの伯父さん
いつでもパイプをくわえた
伯父さん大好きさ

いとうせいこうさんはこの日、細野さんからこんなプレゼントをされたようです。
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で、こんなコメント。

細野晴臣さんにいただいた“世界各国の『ぼくの伯父さん』カバー集”。コレクションを焼いて持ってきて下さったのです。宝物。ラストは日本の「中島潤」さんによるカバー。細野さんは今日、それをカバーしたわけです。

ってことで、僕もこんなCDを作りました。
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といってもたった4曲。いつか中島潤さんの歌ったものを聴いてみたいですね。

ところで、僕が「ぼくの伯父さん」の曲を知ったのは、やはりピチカート・ファイヴの小西康陽さんの影響。この雑誌に載っていた「PIZZICATO FIVE BEST 200 DISC」の中にジャック・タチの映画曲集が入っていたんですね。
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ここに紹介されたレコードやCDを集める日々がずっと続いていました。マイクロスターの佐藤さんもきっと同じような日々を送られていたのではないでしょうか。

そういえば大貫妙子さんにも「ぼくの伯父さん」という曲があります。そちらは詞も曲も大貫さんのオリジナル。でも、もちろん映画を踏まえて作られています。大好きな曲です。また、聴いてみてください。
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by hinaseno | 2016-09-02 12:25 | 雑記 | Comments(0)