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by hinaseno
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夢二の「早春」、そして”旭川”慕情


東京にいないのに荷風が歩いた場所を歩けるというのは幸せなこと。

以前に何度か紹介したことがありますが、今から71年前の昭和20年6月18日の『断腸亭日乗』を改めて引用しておきます。

晴。昼飯後昨朝散策せしあたりを再び歩む。県庁門前の坂道を登り行くに道おのづから後楽園対岸の外の堤に出づ。橋手前に備前焼の陶器を陳列せし店舗、道の両側に並びたれど、店内寂として人影なく、半ば戸を閉せしもあり。橋を渡れば公園の入口なり。別に亦一小橋あり。蓬莱橋の名を掲ぐ。郊外西大寺に到る汽車の発着所あり。眼界豁然。岡山市を囲める四方の峰巒を望む。山姿優婉京都の丘陵を連想せしむ。渓流また往時の鴨川に似て形勢稍広大なり。河原に馬を洗ふものあり。網を投げ糸を垂るゝものあり。小舟を泛るものあり。宛然画裏の光景人をして乱世の恐怖を忘れしむ。晡時客舎にかへる


荷風はこの日、旭川にかかる鶴見橋、蓬莱橋を渡っています。で、例の西大寺鉄道の発着駅へ。参考のため以前作った地図を貼っておきます。
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赤い矢印で示した経路は別の日に荷風が歩いたと想定したものですが、この日荷風は宿泊していた松月を出て県庁のそばを通り、そのあと青の矢印で示した方向に向かいます。
荷風がここを渡ったと知って以来、何度ここを通ったことやらですが、実は昨日も。せっかくのいい天気だったので。
これが荷風の日記にも出てくる蓬莱橋。
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今は車も通れるようになっているので、頑丈に作られていますね。戦前の蓬莱橋の写真を探そうと思いつつ、すっかり忘れていました。またいずれ。ちなみにここを右に行けば後楽園です。

で、昔はこの蓬莱橋を渡った場所には西大寺鉄道の後楽園駅があったのですが、今、そこにあるのは夢二郷土美術館の本館。
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夢二の生家からは遠く離れた、夢二とはおそらくは何の関わりもないこの場所に夢二郷土美術館があるというのも不思議な縁。ちなみに母親の生まれた町でもある夢二の生家のある場所には夢二郷土美術館の別館があります。展示されている作品はもちろん本館の方が充実。
で、今、その本館で開かれているのが「ふるさと岡山を愛した夢二」という展示会。これがそのチラシ。
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というわけで久しぶりに本館に行ってきました。
お目当てはなんといってもこの日のブログでも紹介した「ふるさとの笛」。上のチラシでもこの絵が大きく使われています。この絵ほど僕に強く郷愁の思いを抱かせてくれるものは他にありません。

さて、いくつか夢二グッズを買って家に戻ったらちょっとびっくりなことが。
それは入場券に使われていた絵。なんとタイトルが「早春」。
実は以前に「早春」と題されたマグネットを買ったことがあって、この日も一つ買っていました。でもまさか入場券が「早春」とは。ブログ的にはなんともいいつながりでした。
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そういえば最初に引用した『断腸亭日乗』で、荷風は旭川のあのあたりの風景を見て、京都の鴨川に似ていると書いています。
鴨川といえばピンポンズさんの「鴨川慕情」ですね。これも名曲です。
こんな歌詞が出てきます。

見知らぬ川 叙情かな
見知らぬ川の流れは案外優しいな 何だか懐かしいな
なんてことないな なんて敏感で鈍感な僕の精神なんだろう
叙情 慕情 鴨川慕情 暮れてゆく初夏の夕べ
水面に映る東京 木綿のハンカチひらひら揺れて
叙情 慕情 鴨川慕情 暮れてゆく今日の夕べ
この街で生きていこう 生きていける

ピンポンズさんが東京を離れて京都にやって来たときのことを歌にしたものですね。
同じく東京を離れて岡山にやってきた荷風の気持ちと重なるように思います。
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by hinaseno | 2016-06-19 12:14 | 雑記 | Comments(0)