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by hinaseno

木山捷平の「小さな町」


「すれ違う」といえば、木山捷平と荷風も2年ほどの時と10kmほどの距離を置いてのすれ違いをしています。
ふと思ったのは木山さんがこのことを後に知っただろうかということ。つまり木山さんは荷風の『断腸亭日乗』を読んだかどうか。

この日のブログで紹介しているように、木山さんは荷風が父親と同じ年の生まれで、父と同じく岩渓裳川という人に漢詩を学んでいたことを知って、荷風に手紙まで書こうとしていました。作家として尊敬していたことは間違いありませんが、どこか近しい感情も抱いていたはずの存在。
木山さんが荷風とすれ違って、一言だけ声をかけられたかもしれないという(木山さんの勘違い、あるいは捏造の可能性も高い)岩渓裳川の告別式があったのは昭和18年3月31日。そのひと月半後の5月14日に矢掛、吉備真備の墓、国勝寺を訪ねています(ちなみにその3日前には三石の町を歩いています。日記には「三石下車。船坂峠の方を歩く。関川を見る。小魚がいる。うぐいす鳴く」と記載。たくさん立ち並んでいた煙突のことには触れていない)。
この2年後に荷風が岡山の総社にやってきていたことを知れば、やはり驚かずにはいられなかったはず。

話は変わって電子書籍の話。
「そんなものは消えてしまえ!」
と声を大にして言いたいところですが、iPhoneの中にいくつか入れています。ただし、それをじい〜っと読むことはありません。あくまで検索のため。
検索ツールとしてはやっぱり便利。

木山捷平の作品は現在2冊入れています。『木山捷平全詩集』と先日電子書籍化されたばかりの『酔いざめ日記』。
で、その『酔いざめ日記』で「荷風」を検索すると...

まず出てくるのが昭和15年2月28日。
日付を確認したらもちろん本を開きます。
「午後四時頃起床。昨夜永井荷風『おもかげ』読了した」と。
この日の日記の最後にはこんな言葉も。
「この夜、妻に乱暴する。萬里泣き悲しむ。妻が余のキゲンをそこなうような言動をするからだ。酔覚めて不快」
木山さん、困ったもんです。でも、荷風の『断腸亭日乗』とは違って人間くさい話がいくつもあって、それはそれで面白い。

荷風の『おもかげ』は僕もぼろぼろのものを持っています。岩波書店、昭和13年発行。木山さんが読んだのもこれのはず。
この本には「放水路」をはじめ僕の好きな随筆がいくつか収録されていますが、何よりもうれしいのは荷風の撮影した写真が24枚掲載されていること。

ところで『酔いざめ日記』を見ると、ちょうどこの時期木山さんは『昔野』(「なつかしの」と読みます)の出版に向けて、出版社の「ぐろりあそさえて」に何度も足を運んでいます。
『昔野』はぜひ手に入れたい本。特にそれに収録されている「小さな春」という作品を読んでみたくてしかたがないのだけど。「小さな...」というタイトルには心惹かれます。

もう少しこの年の木山さんの日記を読み進めると興味深い話が。それはこの昭和15年4月25日の日記に出てくる話。
木山さんは雑誌に掲載するためにいくつか原稿を書いてこの日出会った友人に渡していたようですが、その人の下宿の人間が屑屋に売ってしまったとのこと。「何故早く返してくれなかったか、ひどいことをするものだ」という木山さんの気持ちよくわかります。
その原稿のタイトルが「小さな町」と「遠景」。
木山さんが「小さな町」というタイトルの作品を書いていたとは。それから「遠景」というのは木山さんの詩の中でもとりわけ好きな作品と同じタイトル。小説だったのか、エッセイだったのかはわかりませんが、なんとももったいない話。
「小さな町」は一体どこを舞台にした作品だったんだろう。

ということですっかり話がそれてしまいました。これも電子書籍ではなく本を手に取ったからこそです。
by hinaseno | 2016-05-20 14:11 | 木山捷平 | Comments(0)