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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
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「人生はからくりに満ちている」


夏葉社の島田さんの「半径3メートル」のなかにあった本から始まった物語は、おひさまゆうびん舎での高橋和枝さんのイベントのあとで、もうひとつ素敵な話を用意してくれていました。

イベントから家に戻った次の日、早速、くまくまちゃんを描くための画材、コピックをどこで買うことができるかを調べました。
もちろんすぐ近くにはなくて車で30分くらいかけて一番近い店にいきました。あらかじめ電話で確認しておいたので、必要な3本のコピックは用意されていました。

その3本のコピックを持って僕が向かったのはその店から100mも離れていない場所で開かれていた古本市でした。
そこで年に5、6回ほど開かれる古本市は数年前から行っていますが、ここ最近はあまりめぼしいものに出会うこともなくなり、やや足が遠のいていました。その日は開催期間の5日目。かりにめぼしいものが出ていたとしても売れてしまっているだろうと、そんなに期待はせずに行きました。

ところがそこにびっくりするようなタイトルの本が一冊。一瞬目を疑いましたが、改めてじっくりと本の背に書かれているタイトルと作者名を確認しました。
「汽船 小沼丹」

前にも書いたように、僕が2011年の暮れにはじめてツリーハウス、おひさまゆうびん舎を訪ねたときに、最初に言ったのは「小沼丹の本がありますか?」でした。具体的にはクラフトエヴィング商會の『おかしな本棚』で紹介されていた3冊の本『黒いハンカチ』、『小さな手袋』、そして『汽船』。このうち『黒いハンカチ』と『小さな手袋』は翌年くらいに入手。『汽船』だけが手に入っていませんでした。
実はネットでは何度も『汽船』をチェックしていて、それほど高くない値段で出品されていたので何度かポチしようかと考えましたが、そのつど気持ちを抑えました。東日本大震災のあとで心に誓ったのが、ネットでは極力本を買わないようにするということだったので。
正直にいえばこの誓いはいろんな事情で何度かは破っています。でも『汽船』だけはと思い続けてきました。それがようやく。
ちなみに「汽船」という作品は講談社文芸文庫から出ている『村のエトランジェ』に収録されているので、小説だけは読んでいました。副題は「ミス・ダニエルズの追想」。

島田さんの「半径3メートル」のなかにあった本から始まった物語には、いくつもの偶然があるのですが、この小沼丹の『汽船』はとりわけ。
おひさまゆうびん舎に置かれるようになった夏葉社の本を最初に購入されたのは何度も登場しているたつののYさん。窪田さんはそのときにYさんに僕の話をされたようです。小沼丹の本を探しているということも。
実はYさんは小沼丹の大ファンだったので、僕に関心を持たれたようです。Yさんの身近には文学を愛する人がたくさんいらっしゃるのに小沼丹ファンだけはいなかったようです。
で、はじめて島田さんが姫路に来られた日に、Yさんはおひさまゆうびん舎にいらしてたんですね。そのときに僕はYさんから木山捷平という岡山出身の作家が姫路にいたことを聞きます。僕にとってはいろんな意味で運命の出会いでした。

それからYさんの家に招かれて小沼丹の貴重な本を見せていただきました。と同時にYさんが画家であることも教えていただきました。
そのYさんが昔から描き続けられているのが「ミス・ダニエルズ」という女性。もちろん「汽船―ミス・ダニエルズの追想」に登場する外国人教師のこと。小沼丹の作品の中でもYさんがとりわけ愛されていたのが「汽船」だったんですね。
これはYさんが10年ほど前に描かれた作品。タイトルは「ミス・ダニエルズの肖像」。
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古書市で手に入れた『汽船』には月報が入っていました。全集でもないのにこんなものが入っているとは。書いているのは井伏鱒二や夏葉社から『親子の時間』が出ている庄野潤三。ラッキーでした。
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『汽船』の最後には小沼丹の検印が。これがなんともかわいい。
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ちなみに木山さんにもこんなかわいい検印があります。
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それにしても島田さんの「半径3メートル」のなかにあった本から始まった物語は不思議な偶然が続く話ばかり。こういうのを「運命」というのでしょうか。

星野道夫の『旅をする木』に収められた「アラスカとの出合い」には、星野がアラスカと出会うきっかけとなった話が書かれています。北海道のクマのことが気になるようになった10代のある日、神田の古本屋街の洋書専門店で一冊のアラスカの写真集を見つけます。

「たくさんの洋書が並ぶ棚で、どうしてその本に目が止められたのだろう。まるでぼくがやってくるのを待っていたかのように、目の前にあったのである」

その中には「どうしても気になる一枚の写真」がありました。シシュマレフという村を空から撮った写真。
星野はどうしてもその村に行きたくなり、いろいろ調べて、その村の村長の住所がわかったのでそこに手紙を書きます。「あなたの村の写真を本で見ました。たずねてみたいと思っています。何でもしますので、誰かぼくを世話してくれる人はいないでしょうか……」と。
半年後、シシュマレフ村のある家族から手紙が届く。「いつでも来なさい」と。
そして星野はアラスカに向かい、そこで3か月過ごします。本物の野生のクマを見たのもこのときが初めて。この体験があって星野は写真家になり、アラスカに住むようになります。

「あの時、神田の古本屋で、あの本を手にしていなかったら、ぼくはアラスカに来なかっただろうか。いや、そんなことはない。それに、もし人生を、あの時、あの時、……とたどっていったなら、合わせ鏡に映った自分の姿を見るように、限りなく無限の偶然が続いてゆくだけである。
 しかし、たしかにぼくはあの写真を見て、シシュマレフという村に行った。それからは、まるで新しい地図が描かれるように、自分の人生が動いていったのも事実である」

そういえば、中学時代に星野の『旅をする木』を貸して、その後、アラスカに行った少年の話。
アラスカに行く直前にやってきたときに僕は彼にこう訊きました。
「シシュマレフには行くの?」
星野の本はしばらく読んでいなかったけれど、あの村の名前がすっと僕の口から出たんですね。自分でもちょっとびっくり。
そのとき彼の目はぱっと輝きました。彼にとってもシシュマレフというのは大事な場所になっていたようで、僕の口から「シシュマレフ」と出たのがうれしかったようです。
「本当は行きたかったんですが、すごく行きにくい場所にあるので、日程的に無理だったので今回は諦めました」と。

僕がちょっと大きな決心をしたのはこの日。で、彼がアラスカから戻ってきたときに、彼に僕の持っていた星野道夫の写真集をすべて彼にプレゼントしました。その決心を告げることなく。

「アラスカとの出合い」はこんな言葉で終わっています。

「人生はからくりに満ちている。日々の暮らしの中で、無数の人々とすれ違いながら、私たちは出会うことがない。その根源的な悲しみは、言いかえれば、人と人とが出会う限りない不思議さに通じている」

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Commented by Kazue Takahashi at 2016-05-06 21:31 x
くまくまトーンズ、とっても素敵ですね。ポーズが粋です!

半径3メートルから小沼丹にたどり着く長くて短くて、近くて遠いお話、とても感慨深く拝読しました。

マーク・ストランドの詩を読んでグッと心をつかまれたところに私の名前が出てきて「ひゃっ」となりました。それは、どう考えてもよく言っていただき過ぎなのですが、でも、そんなふうに見てくださっていただなんて、それはとてもうれしくて、ここを読んで自分のことを認めてあげられるような気持ちになりました。

私、音楽全然知らないのですが、sail awayは、20代の頃友達に借りて聴いて以来とても好きで、特にサイモンスミスと踊る熊は自作のお気に入りのプレイリストを作るとき(当時はそういうことをマメにやってました!)は必ずといっていいほど中に入れていたくらいでした。なので、くまくまを描いているときも聴いていたかもしれないです。

長々と書いてしまって、すみません!これからもNearest Faraway Place、楽しみにしてます。
Commented by hinaseno at 2016-05-06 23:46
高橋さん、コメントありがとうございます。失礼なことを書いてしまったのではないかとちょっと不安だったので、うれしすぎる言葉の数々に感激しています。

高橋さんが「サイモン・スミスと踊る熊」をご存知なんてびっくりでした。くまくまちゃんを描いていたときに聴いていたかもしれないなんてたまらない話。『Sail Away』って本当にいいアルバムで、とりわけ「Dayton, Ohio 1903」は死ぬほど好きで、昔、それにからめて長〜い(いつもですが)話を書きました。

マーク・ストランドの詩は本当に素晴らしくて、実は先日、島田さんとマーク・ストランドについて秘密(結構すごいです)の話をしています。話が進行すれば最高なんですが。

またお会いできる日を楽しみにしています。

宮沢賢治の絵のこと、心に留めておいていただけたらうれしいです。
Commented by Kazue Takahashi at 2016-05-08 09:39 x
たびたびすみません!
きのう一日かけて少しずつ「Dayton, Ohio 1903」の章を読みました。背景やいろいろなことが胸にひろがり、長い旅をしてきたかのような気分です。

宮沢賢治は、あまりちゃんと読んでいなくて、「貝の火」読んだことがないのです。読んでみます!

ブログを拝見していると、いろいろなことを聞いていただきたくなるし教えていただきたくなります。わたしのほうこそ、またお会いできる日を楽しみにしてます。
Commented by hinaseno at 2016-05-08 15:28
長い話読んでくださってありがとうございました。紹介しておきながらどんなこと書いていたのか忘れてしまっていたので、読み返していました(長い!)。
荷風のことは書いた記憶があったのですが、ライト兄弟の話は自分で書いておきながら、へえ〜っでした。

「貝の火」のこと。僕も実は読んだ(文章だけのもの)のは最近のことで、そのあといくつか出ていた絵本を見たんですが、ちょっとイメージが違っていて...。
もし、高橋さんに描いていただけたら、秘密ということになっている話をお願いして公開させていただこうかと考えています。ちょっとすごいんです。あくまで一部の人間にとっては、ですが。

北海道、行かれるんですね。木山捷平が北海道に行くときに友人で北海道に暮らしていた更科源蔵に尋ねたら、北海道に来るなら5月が一番いいと答えたということです。この話、どこかに書いたかもしれません。
羨ましいです。

今度はぜひ高橋さんの朗読を聴かせてください。

何かありましたらご遠慮なく。
by hinaseno | 2016-05-04 12:15 | 雑記 | Comments(4)