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by hinaseno
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もしも「半径3メートル」のなかにその本がなかったならば(その6)


夏葉社の本をいくつか手に取って最初に思い浮かべたのは『レイモンド・カーヴァー全集』(村上春樹訳)でした。もちろん夏葉社の1作目の『レンブラントの帽子』の表紙の絵を描かれたのが『レイモンド・カーヴァー全集』と同じ和田誠さんだったということもありますが、その後の『昔日の客』『星を撒いた街』『さよならのあとで』も含めて本の肌触りがとても似ているように感じました。
ちなみに『レイモンド・カーヴァー全集』は村上さんが大好きな『チェーホフ全集』(中央公論社)をもとにして作られています。サイズも肌触りもほぼ同じ。
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そういうつながりもあったせいか、『さよならのあとで』の詩を最初に読んだときに、僕は『レイモンド・カーヴァー全集』の第6巻「象 / 滝への新しい小径」の村上さんが書かれた「解題」に引用された「物事を崩さぬために」という詩のことを思い出しました。

村上さんがこの詩に出会ったのはレイモンド・カーヴァーの自宅。村上さんがカーヴァーの家を訪ねて行ったのはこれが2度目。ただしカーヴァーは3年前に亡くなっていました。カーヴァーの墓参りと奥さんのテスに再会するのが目的。
この日、村上さんはカーヴァーの書斎に通されて、カーヴァーが座っていた机の前に座ってしばらくひとりだけの時間を過ごします。窓の外に広がる海を眺めたり、カーヴァーが使っていた鉛筆を手に取ったり。
ふと村上さんは部屋の本棚にあった1冊の詩集に目を留めそれを取り出します。「半径3メートル」のなかにあった本ですね。

部屋の本棚から分厚いペーパーバックのアメリカ現代詩のアンソロジーを一冊取り出してぱらぱらとあてもなくページをめくっていると、マーク・ストランドの短い詩がふと目にとまった。どうしてたくさんある詩の中からわざわざその詩を選んで読むことになったのか、自分でもよくわからない。でもとにかくその詩は、不思議に僕の心を打った。そのときにその部屋の中で僕の心の底でもやもやと感じたまま、どうしてもうまく形にすることができずにいた気持ちを、それは驚くくらいぴったりと表していたので。僕はその全文を手帳にボールペンでメモした。こういう詩だ。

 物事を崩さぬために

野原の中で
僕のぶんだけ
野原が欠けている
いつだって
そうなんだ
どこにいても
僕はその欠けた部分。

歩いていると
僕は空気を分かつのだけれど
いつも決まって
空気がさっと動いて
僕がそれまでいた空間を
塞いでいく

僕らはみんな動くための
理由をもっている
僕が動くのは
物事を崩さぬため。

原題は「Keeping Things Whole」。
この詩を初めて読んだときになぜか僕も心を打たれて(その頃なにかあったんでしょうね)、すぐにマーク・ストランドという人の詩集を買いました。今、読んでもいい詩です。
これがその原詩。
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改めて考えてみると、この「物事を崩さぬために」という詩は、『さよならのあとで』の詩よりもむしろその詩に添えられた高橋和枝さんの絵そのもののような気がします。
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by hinaseno | 2016-04-28 11:49 | 雑記 | Comments(0)