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by hinaseno
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熊本のこと、川上哲治のこと、そして大瀧さんのこと


熊本の方が大変なことになっています。いや、熊本だけにとどまらないことになっていくのかもしれません。熊本には直接には何の縁もないのですが、やはり心配でなりません。
こんなときに暢気に「熊本といえば」、なんて話を書くと顰蹙を買ってしまいそうですが、でもあえて「熊本といえば」という話を。

熊本と言って、ぱっと一番に頭に思い浮かんだのは川上哲治でした。正確にいえば農作業をする川上の姿。
川上といえばもちろん野球の神様と呼ばれた人。でも、川上のことなんて知らない人の方が多くなっているのかもしれません。巨人軍の選手として活躍し、巨人の監督も務めた人。不滅の9連覇(V9)はまさに川上が監督をしていたときでした。

とはいっても、僕はもちろん彼の現役時代は知りません。野球を意識するようになったのはV9最後の年、長嶋が引退した年なので、川上がベンチで采配を振るっていた姿すらリアルタイムでは見た記憶がありません。
でも、もちろんあとでいろんな形で川上を目にしてきました。ただし、正直言えば、どれもあまりいいイメージを持てないものばかり。特に長嶋との確執などがスポーツニュースなどで取り上げられていたときには、なんて嫌な人なんだろうと思っていたものでした。

その川上のことを再認識するきっかけとなったのが昨年出た『大滝詠一 Writing& Talking』に収録された「解説的対談 伝説のプロ野球ファン 大瀧詠一に会いに行く」での大瀧さんの言葉でした。この話の中で川上哲治の名前が出たんですね。それが意外な話でした。

そういえば、以前書いたことをちょっと調べたら、この対談の中で大瀧さんが語ったこの言葉を引用していました。

その「会いに行く」過程が半分ぐらいあってもよかったんじゃないか、っていう気もした。遠慮しないで、どういう過程でそこまで行ったか、いきさつとか縁とか、自分の思いっていうのがいっぱいあったほうが。

僕がこのブログで書いてきたこと(一番は姫路での木山捷平の研究)がまさにこれだったので、この言葉を見つけたときには本当にうれしく思いました。

さて、大瀧さんと言えばなんといっても長嶋ファンとして有名ですが、野球の最初のヒーローは長嶋ではなくて川上だったんですね。
で、もし川上に会いに行ったらという質問に対してこう語られていました。これがとにかく印象に残りました。

大瀧「もしも僕が会いに行ったとしたら、戦争から帰ってきて、巨人に復帰する前、地元に帰って農業をやってた頃の話は聞きたいねぇ」
――「その時だけのことを聞いてみたい?」
大瀧「それに終始。そこだけ、で攻めるね。なんとなく、そこにあの人の真髄が隠れているような気がして」

これを読んで川上の地元はどこだろうと調べたら熊本だったんですね。現在の人吉市。今回の地震の最もひどい被害を受けている地域からはやや南のようです。
でも、大瀧さんの語られたこの言葉はすごくすごく深く、まさにこの言葉にこそ大瀧さんという人の真髄が隠れているように思いました。
川上には現役時代にも監督時代にも数々の伝説があります。長嶋との関係のことも気になるはず。でも、大瀧さんが川上に会いに行ったら「戦争から帰ってきて、巨人に復帰する前、地元に帰って農業をやってた頃の話」だけを訊きたいと。「そこだけ、で攻める」と。
大瀧さんという人が、どういうふうに人を理解しようとしているのかがこの言葉の中に集約されているように思いました。

で、この言葉以来、僕の心の中には、暑い熊本の田圃や畑の中で、裸になって桑を持って働く川上哲治の姿が住みつくことになりました。
きっと大瀧さんも何かでそのエピソードを知ったときに、その風景が心に住みついたんですね。
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by hinaseno | 2016-04-16 11:16 | ナイアガラ | Comments(0)