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by hinaseno
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「小津監督 野田氏 倉シキ下車」


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昨日『東京物語』の「撮影日程表」の昭和28年6月23日から24日にかけての記載から、小津は東京から尾道に向かう列車の中で三石を見た可能性が極めて高いことを書きました。ただ、急行では三石が見えるのはほんの一瞬。いくら観察力が優れている小津とはいえ、それで何かを判断するにはあまりにも時間が短すぎる。
とするならば、もう一度きちんと見ようとしたはず。できれば三石駅に停車する汽車に乗って、そこで下車はできなくとも三石の町をしっかりと見ようとしたはず。

それが示されていたのが7月1日から2日にかけての記述でした。
その部分を改めて貼っておきます。
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読み取りにくい字が並んでいるのですが、間違いなくこう記載されています。
「小津監督 野田氏 倉シキ下車」

「倉シキ」というのはもちろん岡山の倉敷。そこで小津と野田高梧はスタッフといっしょに乗っていたはずの列車から途中下車しているんですね。
これにはびっくり仰天。でも、個人的には大発見。やっぱりそうだったんだということでした。
小津と野田が倉敷に下車したのは他に何かうかがい知れない理由があったのかもしれませんが、最大の理由は三石を見るためだったと思います。

ところでその前に、小津一行が尾道を出発したのは7月1日の何時頃だったかということを確認しておかなければなりません。できればこの年の時刻表があればある程度推測することができるのですが。
で、何かないかなと探していたらありました。こういうときには見つかるもんですね。

見つけたのはみすず書房から出ている『小津安二郎「東京物語」ほか』に収められた「『東京物語』監督使用台本」。
例の笠智衆が時刻表を眺めているシーンのところに、こんなメモが書かれていたんですね。

〈尾1時31発午前 大6時発午前 東16:23着〉〈尾道発15:41 大20:28 東7:20分〉

これはおそらく実際の時刻表に載っていたもので、尾道から東京に向かうときの尾道と大阪の発車時刻と東京の到着時刻を調べたものをメモしたものだろうと思います。

ただ、映画では笠智衆夫妻が尾道を出発するのはおそらく昼すぎ。香川京子さんは「五時間目ァどうせ体操ですから」駅に見送りに行くことができると語っています。午後の最初の授業のときに抜けていくということですね。
で、笠智衆は時刻表を見ながら「これぢやと大坂六時ぢやなァ」と。どうやら実際にはメモの最初に記された尾道を午前1時31分に発車し、大阪に午後6時頃到着する列車しかなかったようですが、老夫婦をそれに乗せるわけにもいかなかったので、それを午後に変えたようですね。

で、気になるのは2つめに記されたほう。おそらく小津一行が尾道を出発するときに乗ったのは、こちらの列車(おそらく急行)の可能性が高そうです。
昨日貼った時刻表を見ると尾道から三石までは急行でおよそ2時間10分ほど。それよりももう少し列車が遅かったことを考えると所要時間は2時間30分くらい。
というわけでこの列車が三石を通過するのは午後6時頃でしょうか。7月の初めであればまだ日は普通は残っていますが、三石は山あいの町なので日が暮れるのは早く、この時間にはかなり町は暗くなっているはず。しかも急行では一瞬のうちに通りすぎてしまう。
ということで小津たちが判断したのが岡山で一泊して翌朝に大阪に向かうということ。少なくとも相生くらいまでは三石駅に停車する普通列車に乗ったのではないかと思います。少しでも町をゆっくりと見るために。

ひとつだけ気になったのは三石(大阪)に近い岡山市ではなく倉敷で下車したこと。岡山に宿泊すればもう少し早い列車に乗ることができたかもしれないのに。
誰か知り合いがいたんでしょうか。

実は「倉敷」は『東京物語』に一瞬登場するんですね。映像ではなく会話の中で。
東京に到着した笠智衆夫妻に、杉村春子が子供の時に尾道の家の近所に住んでいた「お孝ちゃん」という人のことを訊ねます。それに対して東山千栄子がこう答えます。

「あゝ、お孝さんのう、あの人も不幸な人でのう、旦那さんに死にわかれて、去年の春ぢやつたかのう、子供をつれて倉敷の方へ片付いていたんぢやけえど、なんやらそこもえゝ具合にいつとらんらしいんよ」

映画を見ていたときに唐突に倉敷が出てきてびっくりしたんですが、倉敷に下車したということは、何か倉敷に縁があったのかもしれません。

いずれにしても小津と野田は倉敷に一泊。翌朝、大阪に向かい、その途中で三石の町をしっかりと見たことはまちがいありません。
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by hinaseno | 2016-04-14 14:14 | 映画 | Comments(0)