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by hinaseno
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昭和28年6月23 - 24日、急行「安芸」


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前回書いたのは『東京物語』の「撮影日程表」をもとにしてつくりあげた想像上の物語。でも、8割、いや9割くらいは当たっているはず。ただ小津も野田高梧もなぜか二人とも中村伸郎口調になってしまいますね。

小津が三石を舞台にした映画を撮っていることを知ったときに、なんでこんな場所を映画のロケ地に選んだんだろうか、というのがそもそも『早春』という映画に関心を持った理由でした。
『東京物語』の舞台となった尾道は観光地としてそこそこ有名な町だし、なによりも小津が尊敬する志賀直哉が一時期住んでいて、『暗夜行路』の舞台のひとつにもなっていたので、小津がそこを舞台にした映画を撮ろうと思ったのはよくわかります。
でも、三石には、こんなことを言っては申しわけないけど当時も今も見るべきところがない、山あいの本当に小さな町。特に僕はさびれてしまってからの町しか知らないのでなおさら「なんで?」という気持ちを持たずにはいられませんでした。
で、考えたのは、尾道での撮影のときに列車で通りがかって、あの煙突の立ち並ぶ風景に惹かれたということでした。それしか考えられなかったので。
でも、それがこの日のブログで紹介した野田高梧の言葉で証明されたんですね。
改めてその言葉を。

「主人公が岡山県の三石に転勤させられることにしたのは、この前の『東京物語』で尾道へ出かけた時、汽車の窓から見たその町の山に囲まれた、どことなく侘びしい、耐火煉瓦生産地としての工場町風景が、その構想のラストシーンに一番ふさわしいと思えたからである」

これで積年(ってほどでもありませんが)の大きな疑問は解決。でも、まだいろいろと知りたいことはありました。いったいどういうふうにして三石を見たのかということ。つまり、下りの列車で見たのか上りの列車で見たのか、あるいはその両方なのか。

結論は前回書いた通り、おそらく尾道にやってくる下りの列車の中で一度見て、そのあと帰りの上りの列車で改めてきちんと見たのだろうと。

さて、前回書いた話は「撮影日程表」をもとにして考えたといいましたが、実はそこに記されているのはたったこれだけ。
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上が尾道でのロケハンに出発した日と尾道に到着した日のこと。下が尾道を出発した日と翌日のこと。
たったこれだけのことですが、僕にとってはここに知りたかったほぼすべてのことが含まれていました。

まずは尾道に向けて出発した昭和28年6月23日から24日にかけてのこと。多少わかりにくい書かれ方をしていますがこういうことのはず。

 大船集合スタッフのみ尾道ロケハン出発 
 小津監督野田氏 大船発21時50分

スタッフは先に出発して、小津と野田はふたりで後を追う形になったようです。
二人が乗り込んだのは大船発21時50分の列車。

「大船」というのは松竹の撮影所があった場所。東海道本線で尾道に向かうので始発はおそらく東京。
この年の時刻表があればとネットで探してみましたが、この時代の時刻表の古書価格ってめちゃくちゃ高いですね。とても手が出ません。
ちなみに『東京物語』は尾道から東京に向かう笠智衆が時刻表を見ているこのシーンから始まります(この後の空気枕の話は何度見ても笑ってしまう)。
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おそらくこれと同じ時刻表を持って小津たちは尾道のロケに向かったはず。これと同じ時刻表が手に入れば、ですが。

そういえば、と浮んだのがその『東京物語』で笠智衆と東山千栄子が東京から尾道に戻るときの東京駅でのこのシーン。
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表示板に映ったのは二人が乗ることになる東京発広島行きの急行「安芸」。発車時刻は21:00。
ちなみにこれが急行「安芸」の写真。機関車は何種類かあったようですが。
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で、ネットを調べたら3年後の昭和31年の急行「安芸」の時刻表が掲載されていました。ちょっとお借りします。
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これを見ると東京発は20:45。『東京物語』の発車時刻より15分早くなっています。で、大船発の時刻を見ると21:37。小津と野田が乗り込んだ列車より13分早い。やはり小津たちが大船で乗り込んだのは『東京物語』で笠智衆たちが乗ったのと同じ東京発21:00の急行「安芸」であることはまちがいなさそうです。
ただ、この区間だけでも3分短縮されているので、それぞれの発車時刻を単純に15分遅らせるわけにはいかないようです。

『東京物語』では東京駅で長女の志げ(杉村春子)と長男の幸一(山村聰)との間でこんな会話が交わされます。

志げ「尾道、何時に着くの?」
幸一「明日の一時三十五分だ」

上に貼った時刻表を見ると尾道到着は11:49。幸一の語った1:35というのは午後のはずなので、1時間36分早い。出発時刻が14分早いことを考えるとトータルで1時間22分早くなっています。

さて、では三石を何時頃通過しているかということ。
相生駅から三石駅までは30分くらいかかったとして昭和31年の時刻表では9:40分頃。これに出発時刻の15分と、さらに列車がもう少し遅かったことを考えれば11:20くらいかなと。この年の時刻表を調べれば一発でわかることですが。
この時刻であれば遅い朝食をとったとしても、ゆっくり車窓の風景を楽しむことができたはずですね。
とはいってもこの列車は急行なので三石駅には止まらないので、三石の町が見られるのは10秒あるかないか。ぼんやりしていると見逃してしまう可能性が高い。

でも、幸いなことに、三石の町に入る前にかなり長いトンネルがあるんですね。しばらく暗い中にいて、突然風景が開けると、だれもがその風景を眺めてしまうもの。
二人が尾道に向かうときに三石に目にとめたことは間違いありません。

これは昭和40年頃の三石の風景。手前に走っているのが山陽本線の電車。兵庫県との県境にある長いトンネルは手前側にあります。
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by hinaseno | 2016-04-13 12:11 | 映画 | Comments(0)