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by hinaseno
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『早春』誕生の物語


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小津安二郎と野田高梧の二人が大船から乗りこんだのは、まさに『東京物語』の笠智衆と東山千栄子が尾道に帰るときに乗ったのと同じ時刻に東京駅を発車した夜行の急行列車「安芸」。二人はこれから一足先に出発していたスタッフを追って尾道に向かう。もちろん『東京物語』の尾道のシーンを撮影するために。

一夜が明け、二人が朝食を済ませたころ、列車は兵庫県を通過していた。
「おい、確かこのトンネルを抜けたら岡山だな」
「うん、そのはずだ。でも、長いな、このトンネル」
「おい、明かりが見えてきたぞ。どうやらトンネルを抜けるみたいだ...」
列車はトンネルを抜けて三石の町がいきなり二人の視界に入る。
「なんだ、このたくさんの煙突は」
「いったい何の工場があるんだろう」
列車は三石の駅に停車することなく、あっという間に三石の町を通りすぎて再び山の中に。
「おい、今の煙突、気になるな」
「なんて名前の町だろう」
「車掌にでも訊いてみようか」
二人はやって来た車掌に尋ねる。
「さっきの煙突がたくさん立っていた町はなんていうんだ?」
「三石です」
「三石、そうか」
「帰りにもう一回見てみるか」
「そうだな。三石か」

一週間後、尾道での撮影を終えた小津と野田はスタッフとともに次の撮影地、大阪に向かう。列車に乗ってしばらくして二人はあることを思い出す。
「おい、そういえば、あの町を見るんじゃなかったか」
「えっ?」
「三石だよ」
「ああ、そうだったな」
「このままこの列車に乗っていたら暗くて何も見えないぞ」
「そうだな。じゃあ岡山に一晩泊まって明日の朝見るとするか」
「そうしよう」
二人は大阪に向かうスタッフを汽車の中に残して倉敷で途中下車し、駅に近い旅館で一泊。

翌朝、大阪でのロケハンに合流するために、朝早い列車に乗り込んで大阪に向かう。
時刻表を見ながら二人はこんな会話を交わす。
「三石は倉敷からちょうど1時間くらいだな」
「吉永という駅の次か」
「町が見えている時間はあまりないから、見逃さないようにしないとな」

列車は旭川を渡り、さらに吉井川を渡って吉永駅を過ぎる。急に両側から山がどんどん迫ってくる。
「そろそろだぞ」
「うむ」

そして待ちに待ったその風景が突然現われる。
列車は三石駅に停車。
二人は山あいに数十本の煙突の立ち並ぶ風景に圧倒される。
「おい、どうだ、この風景。すごいな」
「ああ、これは絶対に映画に使わなくちゃな」
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by hinaseno | 2016-04-11 09:04 | 映画 | Comments(0)