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by hinaseno
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「よ」の魅力


小林旭さんが歌った「熱き心に」は大瀧さんには合わないなというのが正直な感想でした。いろいろと歌い方を工夫されていて聴かせどころはいくつもあるとは思いつつ、これはあくまでとりあえず歌ってみましたという域を出ないなと。
やはり大瀧さんの声には阿久悠さんの詞は合わない。

ところで、小林旭さんの「熱き心に」は、森進一さんの「冬のリヴィエラ」と同じCM制作会社が企画したもので(森進一で成功したから今度は小林旭と大瀧詠一で行こうということですね)、CM制作側は「冬のリヴィエラ」と同じく松本隆さんに作詞を依頼するように主張したようです。でも、これに反対して、阿久悠さんに作詞を依頼することを提案したのが大瀧さんでした。
「松本の都会調の少し弱々しい感じはアキラさんには合わない」

と。

正直、当時は『EACH TIME』制作以後、大瀧さんと松本さんの関係がちょっとギクシャクしているのかなとか考えていましたが、改めて今考えれば、そんな小さなことではなかったようです。あくまで小林旭が歌う曲としてどういうのがふさわしいかを考えたゆえのこと。

『DEBUT AGAIN』で大瀧さんが「熱き心に」と「Tシャツに口紅」を歌うのを何度か聴いて、阿久悠と松本隆の詞の違いというのがはっきりとわかりました。
阿久悠さんの詞は体言止め、あるいは終止形など断定の言葉ばかり。「強さ」の印象を与えるのはこのため。
それに対して松本隆さんの詞は体言止めや終止形で終わることはめったになく、「ね」とか「よ」とか「さ」とかの助詞(終助詞や接続助詞)が付けられています。ここがまさに大瀧さんが語った「都会調」だけども「弱々しさ」を感じさせる部分ですね。
で、大瀧さんの歌の魅力が最も発揮されるのがまさにその最後の助詞の部分。ここに鼻音、鼻濁音を使っているんですね。

これについて、昨日紹介した内田先生との対談で、こんなことを語っていました。 こうした発声の仕方は大瀧さんが発案したというのではなく、昔はそういう歌われ方をしていたという話です。

たとえば助詞は次への接続詞、間を強調したいがためにそこを曇らせて落とすための鼻濁音だったり鼻音だったりした表現方法が、八〇年代の歌を聴いて育った連中によって強調のストレスだけで前へ前へという全面速攻の歌ばかりになっていったんじゃないかと思う。

ということで大瀧さんは例えば「ね」には鼻音、「が」には鼻濁音を使っているわけですが、個人的には大瀧さんの「よ」に魅力を感じています。
松本さんの歌詞によく出てくる終助詞の「よ」の歌い方には独特の発声方法をされているはずだと。

そういえば「よ」についてはこの日のブログでちょっと触れています。もともとは童謡で使われ始めているんですね。男の子よりも女の子がもともとは使っていたはず。
松本隆さんが詞を書いた松田聖子さんの曲にも「よ」はたくさん出てきます。例えば「赤いスイトピー」の最初の「春色の汽車に乗って海に連れて行ってよ」とか。
ということなので、「ね」と同様に、大人の男が使うとどうしても弱々しい感じがします。小林旭さんが「ね」とか「よ」で歌うのはやはり不自然。
もちろん普通に歌っている大人の男性歌手もいるとは思いますが、大瀧さんはどう聴いても普通の「よ」(実際にはフレーズの最後に来るので「よ〜」)には聴こえない発声をされています。

大瀧さんの「よ」に一番最初に気がついたのは『A LONG VACATION』のこの「雨のウェンズデイ」でした。



冒頭の「何か少し喋りなよ」の「よ」は「お」としか聴こえない。その前の鼻音の「な」とともに特別な響きがあります。

で、「Tシャツに口紅」を聴いていたら「別れるの? って真剣に聞くなよ」のところで、この「雨のウェンズデイ」と全く同じ「なよ」が聴かれたんですね。わおっでした(考えたら「雨のウェンズデイ」と「Tシャツに口紅」は詞の世界、風景がよく似ています)。
それから例の「仔犬が不思議な眼をして 振り向いて見てたよ」の「よ」も同じ響き。ここを普通の「よ」で歌ったらかなりダサくなりますね。いったい大瀧さんはどういう発声をしてるんだろう。

そういえば昔、新春放談で大瀧さん、「よ(よー)」について語っていたことを思い出しました。
日本人は「よー」と言うときには必ず「い」が入るとか、そんな話。確認したいとは思いましたが、さすがに30年にも及ぶ新春放談の中のどこで語っていたかを探り当てるのは困難。
でも、大瀧さんが「よー」とのばす時の発声の仕方を研究されていたことは確かですね。
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by hinaseno | 2016-04-06 14:10 | ナイアガラ | Comments(0)