Nearest Faraway Place nearestfar.exblog.jp

好きなリンク先を入れてください

Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
プロフィールを見る
画像一覧
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

「いわゆる詞先、メロ先という制作方法があるとすると、ナイアガラはオケ先」


今日は『DEBUT AGAIN』に収録された、というか僕の”秘密の”『EACH TIME』のA面3曲目に収録した「Tシャツに口紅」の話を。
でも、これを書きながらずっと聴いているのは『EACH TIME 30th Anniversary Edition』に収録された「木の葉のスケッチ」のオリジナル・カラオケ・バージョン。
A面3曲目の座を奪われた「木の葉のスケッチ」ですが、曲として「Tシャツに口紅」に劣るというわけでは決してありません。これは声を大にして言っておかないと。
「Tシャツに口紅」は歌謡曲として少しだけ親しみやすいメロディをつけたのに対して、「木の葉のスケッチ」はアルバムの中の1曲として少しだけ難しいメロディをつけただけのこと。結果的にそれが親しみやすさ、口ずさみやすさの差になったんですね。

そういえば『Sound & Recording』という雑誌の5月号の巻頭企画「大滝詠一」で、今回の『DEBUT AGAIN』のマスタリングを担当した内藤哲也さんの話が載っていてこれが非常に興味深いものがありました。内藤さんは「ちびまる子ちゃん」以降の大瀧さんのセッションに参加されていて、『A LONG VACATION』の30周年盤以降のリイシューの中心的なスタッフでもあります。『EACH TIME 30th Anniversary Edition』でも、エンジニアのところに内藤さんの名前があります。
この内藤さんが大瀧さんの曲作りについてこんな話をされていました。おそらく『EACH TIME』以降の大瀧さんの曲作りはまさにこうだったんだろうなという話。

「いわゆる詞先、メロ先という制作方法があるとすると、ナイアガラはオケ先ですよね。大瀧さんはスタジオに入るときはメロディは全然できていないんです。自分の頭の中ではある程度できているのかもしれませんけれどね。で、オケが最初にありきで、そこにメロディを乗せて、さらには歌詞に合わせていきます。そういう普通と逆の作り方をするというのが面白いですよね。ただし、方向性が見えてから細部の詰めに至る過程は大変です。...」

ちなみに、大瀧さんと松本隆さんが共作した曲で、大瀧さん以外の人に歌われた曲はほぼすべて詞先で作られています。松田聖子の「風立ちぬ」も、森進一の「冬のリヴィエラ」も、ラッツ&スターの「Tシャツに口紅」も、薬師丸ひろ子の「探偵物語」や「すこしだけやさしく」もすべて詞先。
ただ、詞先だからといって、その詞に描かれた世界とか、言葉数をもとにしてメロディを作っていくわけではないんですね。あくまで大瀧さんが最初に作るのはオケ。

松田聖子の「風立ちぬ」について、大瀧さんはこんなことを書いていました。内藤さんの発言を裏付ける話ですね。

「これは詞が最初にあったのですが、松本的とはいえ〈文語体〉の出だしと〈すみれ、ひまわり、フリージア〉の花屋の店先のような詞に曲をつけるのはムズカシク、一度チラッと見ただけで、一週間以上目につかないところへ隠しておいたくらいでした。で、苦労して作曲したのですが、ナント、肝腎の本人が〈歌えない(彼女はいい曲だが、自分には向いていない〉と思ったそうです)ということで、なかなかヴォーカル・ダビングが行なわれませんでした」

というわけで、やはり松本さんの詞が先にあっても、大瀧さんはその詞の世界にひっぱられることなく、とりあえずまずオケを作って、その後メロディを作って詞をあてはめていくという形をとっていたんですね。
はじめて大瀧さんの曲を聴いた人にとってはびっくりするような譜割が出てくるのもこのあたりが理由のようです。

ただし、例の渋谷陽一さんの番組で『EACH TIME』の本邦初公開の曲として披露された曲のように、これ以上ない程に完璧なオケが作られたにもかかわらず、それにメロディをあてはめることができずに終わった曲もいくつもあるようですが(そのいくつかが『SNOW TIME』に収録)。

「木の葉のスケッチ」のオケを聴いていると、無限にメロディの可能性を感じさせるものがあって、ときどき、おこがましくも自分独自の口ずさみやすいメロディに変えて歌いたくなることがあったりするんですね。何も無理にそんなメロディにしなくてもと思えるところがいくつも。

改めて気づかされるのは『EACH TIME』に収録された曲に関しては、聴いた人が口ずさみたくなるということよりも、とにかくボーカリストとしての大滝詠一の可能性を追求し続けた曲作りがされたんだなということ。

話が「Tシャツに口紅」にいきませんでしたね。
[PR]
by hinaseno | 2016-03-31 12:33 | ナイアガラ | Comments(0)