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by hinaseno

アドバルーンのある風景と「何日君再来」


成瀬巳喜男の『秋立ちぬ』がYouTubeにアップされていたのを見つけて以降、気になっていた映画がいくつもアップされているのがわかって、消されないうちにと思っていろいろと見ています。主に見ているのは戦前の松竹蒲田で制作された映画。
映画を見るといっても、ストーリーよりも風景ばかりを見ています。そして東京の都心の風景が出たときにはビルの上に”あれ”がないかと探してしまいます。
そう、アドバルーン。久しぶりに見つけました。

昨日見たのが昭和8年に公開されたサイレント映画『東京の英雄』。監督は清水宏。
東京の郊外のおそらくは蒲田近くが舞台になっているようですが、長男(突貫小僧)が大きくなって都心のどこかで働くようになったときにちらっと写ったのがこの場面でした。
アドバルーンのある風景と「何日君再来」_a0285828_1255317.png

写るのはほんの数秒。アドバルーンをバックに鳩が舞い上がります。ただ、ビルの上の方しか写っていないのでどのあたりの風景なのかわからないのがちょっと残念。手がかりは長男が入社したのが新聞社だということ。これだけでもわかる人がいたらすごいですね。
でも、いいアングルです。アドバルーンのある風景ってほんとうに幸せな気分になります。

それはさておき、清水宏はやはり子供たちが出てくるシーンがいいですね。冒頭のこんなシーンとか最高です。前年の小津の作品『生れてはみたけれど』を意識して作られているような気がします。
アドバルーンのある風景と「何日君再来」_a0285828_1261650.png

さて、戦前の映画をいろいろと見る一方で、木山捷平の『酔い覚め日記』の昭和7年から10年あたりの日記を、木山さんが 行った場所や会った人を確認しながら何回も読み返しています。
当時、中央線の沿線(最初は大久保、それから馬橋)に住んでいた木山さんはときには中央線に乗って都心にやってきています。この日のブログで紹介した昭和6年に書いた「広告気球」も都心のどこかで見た風景。

その昭和6年に書いた作品に「三月二十日」という詩があります。
電車は本所を走つてゐた。
僕の前に
あまりきれいでない娘が
菜の花をかかへてのつてゐた。

僕は
ふるさとの
だんだん畑を思つてゐた。

本所というのは墨田区、つまり濹東ですね。この電車は路面電車でしょうか。いったいこんな所まで何をしにきたんでしょうか。やはり仕事探し?

このように昭和6年頃から、詩では都会を舞台にした作品が少しずつ書かれるようになっているのですが、小説を書き始めてから小説の舞台にしたのは最初に教師として勤めた兵庫県の県北の出石や郷里である岡山の新山ばかり。

『木山捷平資料集』によれば都会を舞台にして最初に書かれた小説は昭和13年発表の『歯痛の日』とのこと。でも、実はもう少し前に都会を舞台にした小説を書いていたことがわかりました。さきほど紹介した「三月二十日」、あるいは以前、この日のブログで紹介した大正14年に書かれた「女学生」をもとにしたような作品。その作品を入手したのは半年ほど前のこと。ある方に送っていただいたのですが、紹介するのがすっかり遅くなってしまいました。その作品はもちろん全集に載っていません。

その小説を木山さんに書くことをすすめたのが、おそらく昭和7年から10年にかけての日記にちょこちょこ出てくる長田という人物。ずっと「長田」という名字しか書かれていなかったので名前の確認ができなかったのですが、昭和10年の日記に初めてきちんと名前が書かれていました。
「三省堂長田恒雄」

この長田恒雄という人も詩人だったようです。
調べたらこの「何日君再来」という曲の詞(訳詞)を書いた人でした。



この曲はテレサ・テンで歌ったものが有名なようですが、最初に日本語詞で歌われたのは、この渡辺はま子の歌ったもののようです。オリジナルを歌っているのは李香蘭。
ちなみに編曲は仁木他喜雄。オリジナルよりもいいですね。

仁木他喜雄といえばなんといってもこの「蘇州の夜」です。歌っているのは李香蘭。どこか「何日君再来」に似ています。



で、蘇州といえばやはり「蘇州夜曲」。歌っているのは霧島昇と渡辺はま子。こういうタイプの曲はたまらないものがあります。

ちょっと話がそれてしまいましたが、次回はその長田恒雄と木山捷平の最初の都会小説の話に。
by hinaseno | 2015-05-06 12:18 | 木山捷平 | Comments(0)