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by hinaseno
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冬の機関車が、銀河鉄道と岩手軽便鉄道とシベリア鉄道を走る


久しぶりに宮沢賢治の『春と修羅』を読み返しました。すると、すると...。

と、その前に、僕はこれまで何度か宮沢賢治にはまったことがあります。童話で最初に好きになったのは「セロ弾きのゴーシュ」、そしてなんといっても「銀河鉄道の夜」。
岩井俊二のとりわけ好きな『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』に「銀河鉄道の夜」の要素をいくつも取り入れていると知ったときには、おおっ!でした。

『春と修羅』を初めて読んだきっかけは池澤夏樹さんの『未来圏からの風』でした。1996年5月の発行となっています。池澤さんの大ファンだったので発売された日に本を買いました。で、5月のさわやかな風が部屋の中を吹き抜けるのを感じながら、この本を読み続けました。星野道夫と出会ったのもこの本。
この本、何よりもタイトルが素晴らしいんですね。
『未来圏からの風』。
なんとも池澤さんらしいタイトル。
で、最初の部分を読んで、このタイトルが宮沢賢治の詩からとられていることを知りました。「生徒諸君に寄せる」という詩の中の次の部分の言葉ですね。

諸君はこの颯爽たる
諸君の未来圏から吹いて来る
透明な清潔な風を感じないのか

この詩を紹介した後で池澤さんはもう一つ、「未来圏」という言葉が出てくる詩を紹介しています。それが『春と修羅』に収められている「未来圏からの影」という詩。

吹雪(フキ)はひどいし
けふもすさまじい落磐
  ……どうしてあんなにひっきりなし
    凍った汽笛(フエ)を鳴らすのか……
影や恐ろしいけむりのなかから
蒼ざめてひとがよろよろあらはれる
それは氷の未来圏からなげられた
戦慄すべきおれの影だ

池澤さんは詩としてはこちらの方が優れているとしながらも、結局、本のタイトルは「影」ではなく「風」を選びます。やはり「風」の方が本の表紙の写真にもあっていますね。

でも、「未来圏からの影」の詩には惹かれるものを感じて『春と修羅』の収められた『宮沢賢治詩集』を購入しました。
さて、それからほぼ20年。久しぶりに『春と修羅』を読んでみたらびっくりでした。松本隆さんが書いた「抱きしめたい」に結びつく言葉があちこちにちりばめられているではないですか。松本さんは『銀河鉄道の夜』ではなく、『春と修羅』を下敷きにして「抱きしめたい」の詞を書いたのは間違いありません。20年前には気づくことができませんでした。まあ、「抱きしめたい」の詞をきちんと読んだのはつい最近のことでしたから、気づけるはずもありませんでした。
改めて「抱きしめたい」の詞を。

淡い光が吹き込む窓を
遠い田舎が飛んでゆきます
ぼくは烟草をくわえ
一服すると
きみのことを考えるんです

黝い煙を吐き出しながら
白い曠地を切り裂いて
冬の機関車は
走ります
きみの街はもうすぐなんです
ゴオ ゴオ ゴオ と
雪の銀河をぼくは
まっしぐらなんです

飴いろの雲に着いたら
浮かぶ驛の沈むホームに
とても素速く
飛び降りるので
きみを燃やしてしまうかもしれません

で、「抱きしめたい」に影響を与えたにちがいない詩をいくつか紹介しておきます。まずは何といっても「冬と銀河ステーション」。

そらにはちりのやうに小鳥がとび

かげらふや青いギリシヤ文字は

せはしく野はらの雪に燃えます

パッセン大街道のひのきからは

凍つたしづくが燦々と降り

銀河ステーシヨンの遠方シグナルも

けさはまつ赤に澱んでゐます

川はどんどん氷(ザエ)を流してゐるのに

みんなは生ゴムの長靴をはき

狐や犬の毛皮を着て

陶器の露店をひやかしたり

ぶらさがった章魚を品さだめしたりする

あのにぎやかな土澤の冬の市日です

(はんの木とまばゆい雲のアルコホル

 あすこにやどりぎの黄金のゴールが

 さめざめとしてひかつてもいい)

あゝ Josef Pasternackの指揮する

この冬の銀河輕便鐡道は

幾重のあえかな氷をくぐり

(でんしんばしらの赤い碍子と松の森)

にせものの金のメタルをぶらさげて

茶いろの瞳をりんと張り

つめたく青らむ天椀の下

うららかな雪の臺地を急ぐもの

(窓のガラスの氷の羊齒は

 だんだん白い湯気にかはる)

パッセン大街道のひのきから

しづくは燃えていちめんに降り

はねあがる青い枝や
紅玉やトパーズまたいろいろのスペクトルや

もうまるで市場のやうな盛んな取引です

まさに雪の銀河鉄道に汽車が走る風景。しかも「です・ます」調。「きみを燃やしてしまうかもしれません」という言葉も『よだかの星』ではなくこの詩からきていたようです。
それにしても「銀河輕便鐡道」という言葉なんて、軽便鉄道好きにはたまりません。

『春と修羅』には、銀河鉄道のモデルと言われる岩手軽便鉄道を題材にした詩がいくつも収められています。「未来圏の影」の「汽笛」を鳴らしていたのも岩手軽便鉄道だったのかもしれません。
「三六九  岩手軽便鉄道 七月(ジャズ)」と題された詩にはこんな言葉が。

とび乗りのできないやつは乗せないし
とび降りぐらゐやれないものは
もうどこまででも連れて行って

「抱きしめたい」の最後の「浮かぶ驛の沈むホームに とても素速く 飛び降りるので」という言葉と重なります。
他にも「淡い光」「飴色」「黝い」という言葉が使われた詩も見つかりました。

で、これまた久しぶりに松本隆さんの『風のくわるてつと』を開いてみたら、そこに「冬の機関車に乗って」と題された短い物語が収められていました。小説の形をしているけれども、おそらくは実話。舞台は青森から東京へ帰る汽車の食堂車。主人公の「ロック・グループのドラマー」である「彼」は明らかに松本さん自身ですね。
こんな話が出てきます。

 彼は去年作った詩を思い出した。それは、今と同じように、青森から帰る車中で出来た詩だ。雪景色を見ているうちに、それまで書けなかった詩が、いきなり浮かんできた。彼は急いで食卓の上の紙ナプキンに、それをなぐり書きした。その詩は、ボーカルの友人によって曲をつけられて、去年から今年にかけて彼らのグループに、ステージの上で恐らく何十回も演奏されてきたのである。
 去年と今年の間には、ずいぶんいろんなことがあった。紙ナプキンに汚ない字でなぐり書かれた詩はもうレコードにさえなっている。
 彼は時間の流れは暖かいな、と思った。それは、こんな詩だった。

で、「抱きしめたい」の詩が引用されます。

この「冬の機関車に乗って」の最後はこんな言葉で結ばれています。
冬の機関車は、そんな十二月の優しい風景の中を飛んでいた。

この言葉を読むと、「さらばシベリア鉄道」のことを思い浮かべないわけにはいきません。松本さんとしては「さらばシベリア鉄道」は「抱きしめたい」の続編だったようです。
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ところで「冬と銀河ステーション」に出てくるJosef Pasternackという人が気になって調べたら、指揮者のようですね。YouTubeに彼の指揮したベートーヴェンの交響曲第5番「運命」の第4楽章があったので貼っておきます。
どうやら宮沢賢治はこの曲を愛聴していたようです。


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by hinaseno | 2014-12-27 12:01 | 雑記 | Comments(0)