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by hinaseno
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夢二の「ふるさとの笛」に描かれた塔のこと


久しぶりに竹久夢二の話を。
2日前に貼った地図の右上の方に夢二郷土美術館を書き入れていたのに気づかれたでしょうか。
元々この場所には西大寺観音院のある西大寺(岡山市内にも西大寺町があってややこしいですが)に向かう軽便鉄道の始発駅がありました。あの岡山空襲の日には荷風もこのすぐそばを通って逃げていきました。今年は夢二の生誕130年ということで、夢二に関する本が多く出版されたり、あちこちでイベントも行なわれているので、この夢二郷土美術館でも何か特別展が開催されているはず。
ただ、この夢二郷土美術館のあるこの旭川の東岸は夢二とは何の関係もない場所(たぶん)。
夢二と関係があるのは岡山の旭川の東を流れている吉井川という大きな河川の東側。現在の瀬戸内市邑久町。

僕の母親が夢二の生家からはそんなに離れていない場所で生れ育ち、母方の先祖の墓もあるので、夢二の生家のすぐそばを何度も通っていました(つい最近も)。竹久夢二という人物にほとんど関心を持つことなく。
でも、ここ数年、ちょっとずつ夢二に関するものを集めるようにもなり、何度か夢二の生家に、あるいは生家周辺に足を運びました。

2年ほど前に夢二の生家を何十年振りかで訪ねたときに、そこ売店で買った何枚かの絵葉書のひとつが「ふるさとの笛」と題されたものでした。タイトルにあるように夢二がふるさとを思い浮かべながら描いたはずの絵。これがその絵の下半分。
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実はこれを買ったときには気がつかなかったのですが、あとで見たときにはっと思ったのは背景の中に描かれていた塔。
手前に描かれている掘割や土塀は夢二の生家の近くに今も残っています。それから周りには小高い山もあります。
でも、塔はありません。しかもこの塔は見えている部分の屋根が四層。四重塔というのは存在しないので五重塔ということになりますが、岡山で五重塔があるのは夢二の生家からははるかに西の総社市の吉備路とよばれる場所にある備中国分寺の五重塔だけ。備前の東の方に住んでいた夢二のふるさとの風景の中には絶対に存在するはずがありません。

ここでちょっと夢二の生家近くの地図を。赤で○をしたのが塔のある寺です。
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夢二の生家に一番近いのは静円寺という寺。夢二は幼い頃この寺の境内でよく遊んでいたようです。ただ、ここにあるのは多宝塔と呼ばれる2重の塔。しかも百閒の生家近くの瓶井と塔と違い、ここの多宝塔はすぐ近くに行かなければ見えないようなかなり小さな塔。

次に近いのが余慶寺。ここにあるのは三重塔。最近発売されていた『別冊太陽 竹久夢二の世界』では、「ふるさとの笛」の絵とともにこの塔の写真が載っていました。小高い山の上にある三重塔なので、かなり遠くからでも眺めることができます。ただ、夢二の生家の方向から見るのは無理です。吉井川の辺りに行けばよく見えます。

それからその吉井川の西岸にあるのが会陽で有名な西大寺観音院。ここにも三重塔があります。でも、会陽の行なわれる本堂に比べればこじんまりとした感じ。背景に山などありません。
ただ、夢二はおそらく何度も吉井川のあたりに行ったり、あるいは西大寺の会陽も見に行ったはずなので、これらの塔を目に入れていたのは確かなこと。
夢二の書いた作品に『草の実』という童話集があります。これは復刻されたもの。表紙の絵を描いたのも夢二でしょうね。素敵な本です。
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この童話集には夢二の幼い頃の思い出もあれば、その思い出や幼い頃人から聞いた話などを膨らませて創作した物語のようなものもあります。作品ごとに添えられた絵も可愛らしい。
そしてこの本に収められた物語にはいくつか知ったよく地名も出てきます。
たとえば「赤いペン軸」と題された物語には吉井川がいきなり出てきます。
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吉井川の近くにあった家に行って将来の夢を語り合う話。主人公は東京の美術学校に行って美術家になりたいと語っているので、おそらくは実話のようです。

それからもう一つ「夏祭の夜」と題された作品。これが素敵な話なのですが、なんと舞台は牛窓。夢二が牛窓を舞台にした話を書いていたのにはびっくりでした。これもたぶん実話のはず。どうやら夢二の親戚の家が牛窓にあったようです。
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物語はこんな文章で始まります。
私の村からさして遠くない牛窓といふ港町の夏祭に呼ばれていつた時の事でした。

夢二の家から牛窓に行くのは「さして遠くない」とは家、二つくらい峠を越えていかなければなりません。でも、親戚が住んでいたということは何度か行ったんでしょうね。
で、牛窓といえば本蓮寺。ここには牛窓の町に入ればどこからでも見える三重塔があります。
僕は夢二の「ふるさとの笛」に描かれた塔は、峠を越えて牛窓の町に入ってきたときに、海沿いの道から見える本蓮寺の三重塔に一番似ているように思っています(残念ながらそのあたりから撮った写真が手元にありませんでした)。岡山から遠く離れた場所でふるさとを思い描いたときには、生家と牛窓は目と鼻の先に思えたはずですから。

というわけで話の舞台は吉井川の東の方に移ることになります。
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by hinaseno | 2014-10-01 08:29 | 雑記 | Comments(0)