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牛窓の古き町並辿りゆけば瀬戸の潮騒しづこころなく


川本三郎さんがママカリを食べた小料理屋(実は僕もママカリの寿司をいただきました。これが最高に美味しかった)で井伏鱒二が牛窓に滞在していたことを知って、そのいきさつなどを調べていたら、驚くようなことに次々に出会うことになりました。

井伏が牛窓に滞在していた時のことは「備前牛窓」(昭和50年6月発行『新潮』)というエッセイに描かれていて、その冒頭に牛窓に行ったいきさつが書かれています。
数年前から冬になると風邪から気管支ぜんそくの発作を起こすようになったため、瀬戸内寄りの温かい場所に冬の間だけでも転地したいので、どこかいい場所はないかと探していたそうです。で、「岡山の親戚へ依頼の手紙を出し」、その結果、紹介してもらった場所が牛窓だったと。

でも、実は違っていたんです。井伏が相談したのは、井伏とずっと親しくしてきた郷里が瀬戸内にある文人。その人も牛窓が好きで郷里に戻ったついでに何度も滞在していたので、迷わず牛窓を紹介したようです。

さて、その文人。最初に名前を聞いたときには正直ピンと来ませんでした。どこかで聞いたことがあるなという程度。でも、この話を伺った人の書斎に通していただいたら、その人の本が2冊。2冊ともエッセイ集。本を開く前から”うれしい予感”は始まっていました。
最初に手にとった本のあまりにも素敵な装幀が気になっていたので、装幀者の名前を先に確認しました。
山高登。

山高登の装幀した本は知り合いのYさんとともに2年くらい前から探し続けていたのですが、まさかこんな場所で、こんな形で出会うなんてびっくりなんてものではありませんでした。
そして本の目次を見ると、そこには驚くような人たちや本の名がずらっと。
井伏鱒二、荷風、そして木山捷平の作品のタイトルでもある『去年今年』と『酔いざめ日記』の文字も。
筆者の名は村上菊一郎。最初に手にとった本のタイトルは『随筆集 ランボーの故郷』。以前ちらっとだけ紹介したこの、とってもチャーミングな本。
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村上菊一郎は、井伏鱒二を中心としたいわゆる阿佐ヶ谷会と呼ばれる文人たちのメンバーの一人。ただ、自身の著作はそれほどなく、フランス文学の翻訳を多くされています。阿佐ヶ谷会のメンバーということで、当然、木山捷平との交流もありました。『随筆集 ランボーの故郷』で木山さんの『酔いざめ日記』を取り上げているのは、その中に村上菊一郎の名が何度も登場するので、それに触れてるんですね。

さて、話は昨日の続きに。笠岡の港で木山さんと井伏鱒二が再会した後、古川洋三を加えた3人は昼過ぎから夜まで酒を飲みつづけます。で、この会がもう少し発展するんですね。

昨日引用した木山さんの「井伏鱒二」のエッセイにはこう記されています。
この会がきっかけになって、いや、それはそういう時機がきていたかも知れないが、その後東京の疎開者が集合して酒をのむようになった。メンバーは、上記三人のほか、小山裕士、村上菊一郎、大江憲二が加わり、在郷組からは藤原審爾、高田英之助、木下夕爾なども参加した。会場はその都度あちらこちらで、笠岡のこともあれば、倉敷のこともあり、尾道のこともあれば、三原のこともあり、というような具合であった。ただしこれらはみな山陽本線に沿った町であった。
 この会には名前がなかった。例の会と口で言ったり、葉書に書いたりすると、それであッと通じた。それほど、この会はたのしいものであった。御大であり長老である井伏鱒二氏のかもし出す雰囲気にわれわれは酔った。文壇のエース井伏鱒二氏を、われわれ疎開組だけで独占しているような快感が、この会には満ちあふれていた。

というわけで、木山捷平の『酔いざめ日記』にはこの呼び名のない会が何度か開かれていたことが記されています。その日、集まったメンバーも記載されていて、村上菊一郎の名前も何度も。ちなみに村上菊一郎の郷里は三原。

ところで、このメンバーの中には、これから先に書く予定の話の重要な人物の名前があるのですが、それはまた後日。

『随筆集 ランボーの故郷』には村上菊一郎が詠んだ短歌が最後に収められていて、その中に「備前牛窓」と題して4首の短歌が載っています。大変貴重なものだと思いますので、ここにその4首を載せておきます。村上菊一郎がいかに牛窓の町を愛していたかがよくわかります。
さくら咲く丘のかなたに本蓮寺の塔なつかしき備前牛窓

などかくも心に沁むか牛窓の朽ちなんとする青楼のあと

備前焼をひさぐ店あり店番のおきなおうなの顔のよろしさ

牛窓の古き町並辿りゆけば瀬戸の潮騒しづこころなく

大好きな本蓮寺の三重塔のことがうたわれているのがうれしかったですね。この本蓮寺の三重塔のことも、また後の話で出てくることになります。
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by hinaseno | 2014-09-27 08:49 | 雑記 | Comments(0)