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by hinaseno
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小津の『早春』と「岡村書店」のこと(2)


小津と山下左登子という女性の淡い(?)ロマンスの話は別として、岡村書店は『早春』と関係のある仕事を任されていたというのは間違いのないことだろうと思います。
小津が岡村書店に最初に頼んだのが平凡社の百科事典。
ちょっと調べてみると平凡社では昭和6(1931)年から昭和10(1935)年にかけて『大百科事典』(全28巻)を刊行、戦後、それを復刊しています。岡村書店が小津の日記に登場する昭和30(1955)年には『世界大百科事典』の刊行を開始しています。ただし、3月の段階で何冊刊行されていたかは不明。届けさせたということを考えるとやはり『大百科事典』の方を全巻でしょうか。

それから小津は5月14日に岡村書店で「川柳評釈」という本を買っています。調べたら大正14年と昭和2年発行の『古川柳評釈』という本がありました。ということから考えると、どうやら岡村書店というのは古本屋のようです。
何かの本を探していたというのであれば、それが入ったときに連絡、あるいは届けてもらえばすむはずのこと。これだけ何度も行ったり、あるいは来ているというのは、やはり『早春』の映画に関して、何か大きな頼みごとをしていたんだろうと。この疑問はずっと抱いていたのですが、その疑問を解くキーワードがまさに小津が最初に『早春』のひらめきを得たときに記した言葉でした。
「インテリの長屋物」

『早春』の映画では、池部良の家と、亡くなった三浦(池部良と同期の入社で考え方もかなり近い)という同僚の家にたくさんの本が本棚に入れられているのが映ります。その本を岡村書店に用意してもらったんだろうと。
普通は適当にいろんなところから本を集めて本棚に並べておけばいいんじゃないのかと思ってしまいますが、やはりそこは小津。本棚が映画のスクリーンに大きく映ったときに、そこに見えた本がいかにもインテリが読むような本であると思われることにこだわったんでしょうね。で、岡村書店にインテリはどんな本を読むのか相談しながら、映画の撮影が始まるまでに少しずつ本を集めてもらっていたのではないかと。

というわけで、映画に映る本を確認。実は前からこれは何度かやっていました。
まずは亡くなった三浦の部屋に置かれている本棚。辞典とか洋書らしきものが見えますが、具体的なタイトルは見えません。
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もう少し大きく映るカット。でも、よくわかりません。
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今度は池部良の2階の部屋。正面と左側に本棚が2つもあります。ちなみに酔っ払って寝転がろうとしているのは三井弘次と加東大介。インテリとは反対側にいる人たち。本には何の興味も示しません。
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これが翌朝のシーン。上のシーンの左側にある本棚が加東大介の背中にあります。やはりタイトルは見えません。
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次にこちらが彼らと会話している池部良。この背後に映っているのが2つ上の写真の正面に置かれている本棚。やはりタイトルは見えません。でも、ちょっと興味深いことが。
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あのまま酔っ払って寝たので本に触るわけはないのに、朝になると一夜のうちに、置かれている本の状態がかなり変わっています。 本の傾き方、あるいは配列、よく見ると本棚の上の布らしきものの置かれ方も。
どうやら別の日に撮影されて、一度本の出し入れがなされたようです。もしかしたら三浦の家の本棚に置かれた本もいろいろと配置を換えて使い回しをしていた可能性があります。まあ、こういうのに気づけるってのは、DVDの時代だからなんでしょうね。

さて、最後は、池部良が三石に引っ越しすることになって荷造りをしているシーン。そこにノンちゃんこと高橋貞二がやってきたので、置いてある本をあげるよということになった場面。
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高橋貞二はインテリの要素が少し入っている、つまり少しだけ思慮深い人間という設定。彼は一冊一冊確認しながら本を重ねていきます。彼が手にしているのは雑誌のようです。単行本や大きな本は引っ越し先に持って行くけど、雑誌の類いは処分しようとしていたということですね。

これはタイトルがはっきりと映っているんですが読み取れない。こういうのを大瀧さんはいろんな方法を駆使して読み取られていたそうです。
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で、次。ついに雑誌の名前が見えました。
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はっきりと「春秋」の文字が右の方に。これはまぎれもなく『文藝春秋』。ネットで昭和20年代後半の『文藝春秋』を確認したらまさにこんな感じでした。

というわけで、結局確認できたのはこの1冊だけ。もしかしたら大画面のテレビでブルーレイを観たら、もう少し本が確認できるかもしれませんね。

これらの本は撮影後に岡村書店に返したんでしょうか。あるいは撮影が済んでも小津が読みたいと思うような本を買い集めていたんでしょうか。
あとはこの先、日記を読み進める中で山下左登子という女性が出てくることがあるのかどうか気になります。
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by hinaseno | 2014-09-18 08:36 | 映画 | Comments(0)