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by hinaseno
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下駄の会話のある風景


今日の話からはそれてしまいますが、そういえば、これを紹介するのをすっかり忘れていました。
なんと、あの勝山での日々を記した荷風の『断腸亭日乗』と谷崎潤一郎の『疎開日記』が、岡山の進学高のひとつである大安寺高校の推薦入試の問題に使われていたんですね。いや、本当にびっくり。こんなのを入試問題に使うなんて、作った人は素晴らしい。
〈問6〉なんていいですね。『罹災日録』では「一歩一歩囊中に追ひ込まれ行くが如き心地す」と記されている部分。ちゃんとみんな解けたかな。

さて、少し前に「アドバルーンのある風景」について書きましたが、今日は「下駄のある風景」。といっても、ちょっと古い映画であれば、登場人物が下駄を履いている場面はきりがないほどあります。
今日紹介するのは会話の中に「下駄」という言葉が出ている映画の話。で、もちろん小津の映画から。

先日、久しぶりに小津の『東京物語』を観返して、ちょっといい場面に気づきました。
東京を訪ねてきた笠智衆と東山千栄子の夫婦が娘の杉村春子の家に泊まっていたときのこと。杉村春子の家は美容院をやっていて、ずっと忙しくしているのでふたりをほったらかしにしてるんですね。というわけで東山千栄子は二階の部屋でひとりでほどきものをしていて、笠智衆は二階からさらに階段を上がった物干に腰を下ろして町を眺めています。そこに杉村春子の夫の中村伸郎が戻ってきてふたりに声をかけます。
「風呂へ行きましょう」
東山千栄子にはこんな言葉も。
「またお母さん、帰りに小豆アイスでも食べますか」
この後、3人が家を出て行こうとしたときに、杉村春子が東山千栄子にこう声をかけます。
「あ、お母さん、そこのあたしの汚い下駄はいていくといいわ」
それがこの場面。もちろん笠智衆も中村伸郎も下駄を履いています。別に”汚い”という言葉をつけなくてもいいと思ってしまうのですが、でもいい場面です。
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そういえば、僕が小津映画で最も好きな「しげ三部作=しょうじ三部作」の他の2作『早春』と『麦秋』にも会話に「下駄」が出てきた場面があったなと思ってちょっと確認。

まずは『麦秋』。
笠智衆の2人の子どもが家から出て行ったまま夜になっても戻ってこないので原節子が謙吉の家を訪ねてきます。謙吉は心配して自分も探しに行くことに。急いで家を出て行こうとする謙吉に母親の杉村春子がこう声をかけます。
「お前、その下駄、鼻緒ゆるいよ」
それがこの場面。
a0285828_1081570.jpg

でも、謙吉は「大丈夫だ」と言って家を飛び出します。

それから『早春』。こちらはかなり大事な場面に下駄の会話が使われています。
岸恵子と一夜を過ごした池部良が家に戻って来たときのこと。家には妻の淡島千景の母親の浦辺粂子が来ています。それぞれにかなり気まずい状況。
で、浦辺粂子が台所にいるときに池部良はこう言って出かけようとします。
「ちょいと風呂へ行ってきます」
すると浦辺粂子がこう声をかけます。
「あぁ、行ってらっしゃい。下駄は?」
この場面ですね。
a0285828_1091439.jpg

池部良はもちろん自分の家だからこう答えます。
「わかっています。お母さん、ゆっくりしてらしゃいね」
と言いながら下駄を取り出しているのがこの場面。
a0285828_10102066.jpg

浦辺粂子は尋ねたわりには全くそっちを見ないで、煮物の入った鍋を見ているのが笑えます。
娘の夫が昨夜戻って来なかったことは知っている中での「下駄は?」という問いかけ。間が抜けているようで、含みもあるような。

3作とも特に下駄の会話がなくてもよさそうですが、それぞれの会話の中にいろんな形の小さな心遣いが入っています。こういう細部こそが小津の映画の魅力であることは言うまでもありません。
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by hinaseno | 2014-08-20 10:10 | 映画 | Comments(0)