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by hinaseno
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暖簾が風に気持ちよくはためくためには(5)― 「袋の中」の岩山駅 ―


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8時5分に岡山駅を発車した特急やくもが乗り換え駅である新見駅に到着したのは9時7分。ちょうど1時間。ちなみに各駅停車の列車に乗ると1時間50分くらいかかります。

荷風はというと。
正午新見といふ驛の停車塲に着す。こゝにて津山姫路行の列車に乘替をなす。

荷風の乗った列車が岡山駅を発車したのは9時42分なので新見まで2時間余りかかっています。

僕が新見に到着したときには津山行きの姫新線の列車はすでにホームに停車していました。でも、発車までには50分近くあったので、せっかくなので新見の町を少しだけ歩きました。といってもあまりにも暑く、駅近くにめぼしいものも見あたらなかったので、すぐに駅に戻って冷房の効いた列車(といってもたった一両)に乗り込みました。僕が乗ったときには乗客は一人もいませんでした。

荷風はというと、おそらくすぐに乗り換えの列車に乗り込んだとは思いますが、発車までには少なくとも30分くらいはあったんじゃないでしょうか。で、発車までの間、列車の中からまわりの風景を眺めていたようです。荷風の目がとらえた新見駅周辺の風景。
車窓より町のさまを窺ひ見るに渓流に沿ひ料理屋らしき二階家立ちならびたり。家屋皆古びて古驛䔥條の趣あり。鐵道従業員多くこの地に住居するが如し。

僕の乗った列車はようやく9時51分に新見駅を発車。乗客は5人ほど。荷風が乗った列車が発車したのはおそらく12時半くらいでしょうか。

新見を出て、列車はさらに奥深い山の中に入っていきます。かなり急な斜面を登っているようで、苦しそうな軋む音が聴こえてきます。どういうタイミングなのかはわかりませんが、何度か警笛を鳴らしながら。
荷風は新見駅から勝山に向かう列車の中で見た風景をこう描いています。
新見を發するや左右の青巒いよいよ迫り、隧道多く、渓流ますます急なり。されど眺望廣からざれば風光の殊に賞すべきものなし。一歩一歩囊中に追ひ込まれ行くが如き心地す。

まさにその通りの風景。両側から山が迫ってきて、違う世界に入っていく感じ。それを荷風は「一歩一歩囊中に追ひ込まれ行くが如き心地す」と表現しています。素晴らしいの一言。ただし『断腸亭日乗』では「青巒(せいらん)」が「青山」に、「囊中(のうちゅう)」が「袋の中」という言葉に。意味が分かるように変えたのだとは思いますが、読んだときの言葉の調子、あるいは言葉の響きが全然違います。

これは勝山に向かう途中で一瞬開けた風景を列車の中から撮ったもの。こんな深い山の中にも家が建っていて人が暮らしていることに驚いてしまいました。
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ところで、新見から勝山に向かう途中、どうしても見ておきたいものがありました。
岩山駅の木造駅舎。
姫新線には古く雰囲気のある、相当ディープな木造駅舎がいくつか残っているのですが、岩山駅はその中でも特に素晴らしいものの1つ。もちろん無人駅。
以前に紹介した『鉄道遺産を歩く 岡山の国有鉄道』(2008年 吉備人出版)という本でこの写真を見て、いつかぜひ見てみたいと思っていました。
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で、停車したときに開いた扉から撮ったのがこの写真。
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本当は下車して、駅の正面とか駅の内部(昔の便所がすごい)を見てみたかったのですが、調べてみたら次の列車が来るのはなんと4時間後。いくらなんでも、ここで4時間過ごすわけにはいきません。
ネットで調べてみたらYouTubeに、岩山駅の風景をとらえたものがいくつもありました。きっと全国に岩山駅のファンがかなりいるんでしょうね。というわけで一番新しいものを貼っておきます。



さて、話は昭和20年8月13日の荷風のことに。
岩山駅を通過するあたりだったかどうかはわかりませんが、荷風は車内である人たちの存在に気がつきます。
車中偶然西歐人夫婦幼兒を抱きて旅するものあるを見る。容貌獨逸人なるが如し。

どうやら、このドイツ人とおぼしき家族が向かっていたのも勝山だったようです。
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by hinaseno | 2014-07-31 08:47 | 雑記 | Comments(0)