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暖簾が風に気持ちよくはためくためには(3)― 潤一郎と勝山とタルマーリー、そして銭湯と下駄 ―


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谷崎潤一郎が勝山に疎開していたときのことに関するものをいくつか読んだ後で、メールをチェックしたらN社のSさんからメールが届いていました。出たばかりのSさんの著書『あしたから出版社』の感想などを書いたメールの返事でした。

ところで『あしたから出版社』にはこんなことが書かれています。
 潤一郎という名前は、谷崎潤一郎からとった、と母から聞いた。
 本当は父が好きだった吉行淳之介の名をとって、淳之介という名前にしたかったけれど、画数が悪いといわれ、それで、潤一郎にしたらしい。
 この名前のおかげで、ぼくは、子どものころから、文学に親しんでいる気持ちを持った。人に自分の名前を説明するときは、必ず谷崎の名前を出した。

で、その「潤一郎」という名前のSさん(隠すほどのものでもないですね)のメールで、Sさんの友人の萱原さんという方が、まさに勝山で本屋をされようとしているという情報をいただき、その萱原さんの書かれたこちらのサイトの記事を教えていただきました。
「潤一郎」さんのメールの中に「勝山」の文字を見ただけでも驚きだったのですが、萱原さんの書かれている文章の中にもうひとつ驚くことが書かれていました。
タルマーリーという名前のパン屋。萱原さんはそのタルマーリーの店主の方が書かれた本の制作に関わられていたとのこと。

タルマーリー? どこかで聞いたことがある、というか読んだ(見た)ことがある。それもつい最近。確かその写真の店も見たような。

思いあたる本は一冊しかありませんでした。『あしたから出版社』とほぼ同じ頃に出版された『「消費」をやめる 銭湯経済のすすめ』という本。その209ページにその写真はありました。
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この写真を心に留めていたのは岡山の勝山でお店をされているということもありましたが、何よりも写っている店の人たちがなんともいえないくらいにいい表情をしていることでした。

『「消費」をやめる 銭湯経済のすすめ』の著者は平川克美さん。 平川さんはタルマーリーをこう紹介されています。
あのパン屋さんの感じは、小商いのひとつの理想形です。やっていて楽しそうなのが、傍から見ていても伝わってくるし、実体のあるものをつくる喜びと、顔の見えるお客さんに喜んでもらえるのは確かな手応えになります。小商いの担い手と、店を支えるお客さんが顔の見える関係を築くというのは、重要なポイントになるはずです。

それにしてもここまでいろんなことが一気につながると運命的と思わずにはいられない。すぐにでも勝山に飛んでいきたくなりました。ただ、その前に、その平川さんの本でも紹介されている、タルマーリーの店主の渡邉格(わたなべいたる)さんの書かれた『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』を読んでおこうと。
これがまた最高におもしろい本でした。深く頷かされることがいくつも書かれています。島田さんの『あしたから出版社』にも平川さんの『「消費」をやめる 銭湯経済のすすめ』にもつながっています。
『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』を読んでいるうちに、店も、店で働いている人たちも、店のある町並みも見たくなりました。そしてもちろんそこで作られているパンを食べてみたい。

ところで、話はまたちょっと下駄のことに。
平川さんの『「消費」をやめる 銭湯経済のすすめ』には、過去の平川さんの関わられてきた仕事のことが書かれているのですが、興味深いのはやはり内田先生や石川さんのいらっしゃった「アーバン・トランスレーション」という会社のこと。
最初は渋谷の道玄坂に事務所を構えられたそうですが、社員が増えてオフィスが手狭になったので別の場所に移転されたんですね。その新しいオフィスに関する話。
広いオフィスに社長室、そしてそこには座り心地のいいソファ。普通(?)の人であれば最高の気分になってもおかしくないはずなのですが、平川さんはそこに居心地の悪さを感じてしまうんですね。
そこは、広さが数百平米もあり、しかも、あろうことか社長室なるものができてしまいます。そこにソファを入れたのがいけなかった……。社業は順調、自分は社長室にいるだけで、会社も自分の給料も何となく回ることが見えてしまうと、仕事が途端に面白くなくなって、一日の大半をソファで寝て過ごすようになってしまったんです。
 早い話が、「社長業」にまったく興味をもてなかったということです。次第に、社長室にいるだけの退屈な日々に飽き、何か別なことをしたいと思うようになっていきました。

そういえば、当時この会社の平川さんの部下だった方から、平川さんが下駄で会社に通われていたという話を以前伺いました。それはまさにこの時期のことだったんでしょうか。
それを伺ったときには、いろんな意味ですごいな、と思ったのですが、まさにその下駄が次なる歩みを導いていたような気がしないでもありません。
小商いの店が並ぶ町や銭湯には下駄が似合っています。もちろん暖簾も。

というわけで、重い腰を上げて僕は勝山へ向かいました。
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by hinaseno | 2014-07-29 11:09 | 雑記 | Comments(0)