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by hinaseno
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Blue On Blue


昨日は、すごいものに出会ってきました。感動のあまり涙が出そうになったくらいのもの。
まあ、それくらいのことくらい、前もって調べておけと言われてしまうような話ではあるのですが。
でも、荷風さんもこう言っています。
「偶然のよろこびは期待した喜びにまさることは、わたくしばかりではなく誰も皆そうであろう」

『元八まん』という随筆の書き出しですね。 荷風が地図も持たずに歩いていたときに「全く偶然」に元八幡宮の古祠を見つけた話。荷風の随筆の中で一番好きかもしれません。何度読んだかわからない。次の言葉ほど共感を覚えるものはありません。
「始めからこれを尋ねようと思立って杖を曳いたのではない。漫歩の途次、思いかけずその処に行き当ったので、不意のよろこびと、突然の印象とは思立って尋ねたよりも遥に深刻であった」

さて、そんな出来事があった昨日の話。
かなり前から行こうと思っていた倉敷の大原美術館についに行ってきました。といっても、大原美術館へは過去に3度くらいは行っています。何十年も前ですが。3年ほど前にも倉敷に行きましたが、そのときには大原美術館には立ち寄らず。

なぜ、大原美術館に行ったかというと、一つの絵を見たかったからです。
入場券を買って、とてつもない名画がいくつもあるギリシャ神殿風の本館を横目に通り過ぎて、向かったのは分館。たぶんそんな人はあまりいないでしょうね。本館に行くだけで分館に行かない人も多いはずですから。でも、今回のお目当ての絵は分館にありました。

小出楢重の「Nの家族」。木山捷平に関する本を書かれた岩阪恵子さんの『画家 小出楢重の肖像』を読んだのがきっかけでした。岩阪さんの評伝は、その対象となっている人物への寄り添い方に何ともいえない愛情があって、いつしかその人を好きになってしまうんですね。この本を読むまで、恥ずかしながら小出楢重という画家なんて知りませんでした。
で、この本の最初のページに載っていたのが「Nの家族」の写真。
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そして岩阪さんの本は、まず大原美術館の分館にある「Nの家族」を訪ねるところから始まります。岩阪さんが訪ねられたのは1990年。

小出楢重に興味を持ったのは、岩阪さんの本の素晴らしさとともに、いくつも引用されている小出楢重の文章の面白さ、それからやはりいくつか載っている絵日記に添えられた絵の楽しさ。大阪の道頓堀川を描いたこの絵なんか最高です。ここにプールを作ろうなんて言っている○○な人もいますが。
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そしてもうひとつ、というかこれが一番大きなことだったのですが、小出楢重が大正15年に芦屋に住み始めたということも僕にとっては強く「縁」を感じさせることでした。
大正15年、芦屋というと、僕がずっと調べていた姫路の木山捷平をいろんな形で手助けしていた大西重利さんが、まさに大正15年に芦屋で活動されていました。岩阪さんの『画家 小出楢重の肖像』を読んだのが、まさに芦屋時代の大西重利さんのことをいろいろと調べている時だったので、大正末期から昭和にかけての芦屋を知る上でも、小出楢重という画家をきちんと調べてみたいと。その第一歩が大原美術館の「Nの家族」を見ることでした。ずいぶん時間が経ってしまいましたが。

「Nの家族」は最初に入った部屋のほぼ正面に飾られていました。 やはり実物をみると違いますね。描かれた人物の顔はほぼ実物と同じ大きさ。絵の中に描かれている小出楢重の家族3人のそれぞれの、あまり幸福とはいえないかもしれない様々な想いが伝わってくるかのよう。隣にもうひとつ、小出楢重の裸婦を描いた絵もありました。

小出楢重の絵を見終えて、この日の目的は一応達したので、(超有名な日本画家の絵がいくつもありましたが)さ〜っと見流して分館を出ようとしつつ、分館の2つめの部屋に入ったときに、目に飛び込んできたのが、まさに「青」でした。画集で何度も見ていた青い絵。

松本竣介の「都会」。
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まさかこの絵がこんな場所にあるなんて思ってもみませんでした。信じられない気持ちと感動でしばらくの間その場に放心状態で立ち尽くしてしまいました(後で確認したら、僕の持っている画集には絵の横にきちんと「大原美術館」と記載されていました…)。

それにしても松本竣介の青の美しさは特別ですね。
青の上に違う濃さの青が重なっていて、その青の美しさに圧倒されてしまいました。
絵のサイズもかなり大きなもので画集ではよく見えなかった細部に描き込まれた黒い線画もよく見えました。建物の窓の一つには人の顔が描かれていたとは。

というわけで、この段階で、正直、小出楢重には申し訳ないけど、小出楢重の「Nの家族」を見た感動はふっとんでしまいました(この文章もふっとんだ状態で書いています)。結局30分くらいは松本竣介の絵の前に立っていたように思います。何人かの来館者(といっても5人くらい)が僕の後に来ましたが、だれも立ち止まることはしません。

この後、久しぶりに本館に行き、数々の最高級の名画を見ましたが、どれも松本竣介の絵を見た感動には遠く及びませんでした。

そういえば、この日、僕はずっと「ゴー!ゴー!ナイアガラ」でかかったボビー・ヴィントンの曲を聴いていました。いくつもの「ブルー」の曲の中で、昔からやはり一番好きなのは、バカラックが曲をかいた「Blue On Blue」。



詞はもちろんハル・デイヴィッド。この歌詞のブルーは色のことではなく心が沈んだ状態を意味するブルー。哀しみの上にさらに哀しみが重なるという意味ですね。
でも、僕はこれからおそらく松本竣介のいくつものブルーが重なった青の時代の絵を見るたびに、ボビー・ヴィントンの「Blue On Blue」が頭の中に流れてきそうな気がします。

大瀧さんもこの「Blue On Blue」が大好きなようで(「非常に大好きな曲」と言ってます)、タイトルに「ブルー」がつく特集の1曲目にもこの曲をかけています。
「ゴー!ゴー!ナイアガラ」では数少ない、2度かけた曲のひとつですね。

というわけで、大原美術館ではこの2枚のポストカードを買いました。
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by hinaseno | 2014-06-29 09:53 | 雑記 | Comments(0)