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by hinaseno
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「空には今日もアドバルン」


今日もまた「たまたま」、「偶然」の話。
時間をかけた研究、分析の成果でも何でもありません。
そういえば大瀧さん、『ナイアガラ・ソングブック』のインタビューでこんなことを語っていました。至言です。
だから何度も言う通り、仕掛けたものは絶対だめ。仕掛けたら偶然じゃないわけだから。偶然を増やす方法があるとしたら、それは何にも仕掛けないこと。

話は昨日ちょこっと触れた美ち奴さん。
「みちやっこ」って読みます。もちろんある方からその名前を聞かされるまでは全く知りませんでした。
つい先日、アゲインで行なわれた、例のSP講座で美ち奴さんの特集があったそうで、確かその次の日に石川さんからお電話をいただいて、ぜひ美ち奴を聴いてほしいとの話。
でも、美ち奴って誰って感じで、とりあえずは予習がてらウィキペディアを見て、代表曲をいくつか聴いてみました。

その美ち奴さんのたぶん最大のヒット曲が「あゝそれなのに」とわかって、それを何度か聴いていたら、どこかで聴き覚えのあるフレーズが。何かの古い映画で歌われていたような。この曲です。



古い映画といえば、僕が観ているのはほとんど小津ばっかりなので、そのあたりでねらいを定めて検索してみたら、なんと、なんと『早春』だったんですね。びっくり×4。

映画の中で「あゝそれなのに」を歌うのは岸恵子。例の大森で一夜を過ごす晩に、池部良と二人で行ったお好み焼き屋の部屋で歌うんですね。映画的にはかなり重要な場面。
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こんな会話。
岸 「ねえ、どうして黙ってンの?」
池部「それ、もう焼けてるぞ」
岸 「奥さんなんてつまンない……」
池部「どうして?」
岸 「ねえ、知ってる? 空には今日もアドバルンっていう唄」
池部「知ってるよ」
岸 「待ってたって帰って来ないわよ。お好み焼き屋でビール飲んでンだもん」

この「空には今日もアドバルン」というのが「あゝそれなのに」の歌詞の一部だったんですね。一応、「あゝそれなのに」の歌詞を。
  空にゃ今日もアドバルーン
  さぞかし会社で今頃は
  おいそがしいと思うたに
  あゝそれなのに それなのに
  ねえ おこるのは おこるのは
  あたりまえでしょう

  どこで何しているかしら
  何か悲しい日暮どき
  想うはあなたのことばかり
  あゝそれなのに それなのに
  ねえ おこるのは おこるのは
  あたりまえでしょう

  ひとり出ているお月様
  窓で見ているこのわたし
  とぎれとぎれの針仕事
  あゝそれなのに それなのに
  ねえ おこるのは おこるのは
  あたりまえでしょう

  夜更けに聞える 足の音
  耳をすませば 胸が鳴る
  帰って来たかと 立ち上る
  あゝそれなのに それなのに
  ねえ おこるのは おこるのは
  あたりまえでしょう

会社からなかなか帰って来ない夫に腹を立てている奥さんの心情を歌ってるんですね。この歌の歌詞を知って初めて岸恵子がしゃべっていたことが理解できました。特に、ちょっと吐き捨てるように言う「待ってたって帰って来ないわよ」というセリフは、これまでずっと、意味が分からないでいたのですが、この歌詞を踏まえてのセリフだったんですね。

この後二人はキスを交わし、そのあと再び岸恵子がうれしそうにハミングする場面があるのですが、それもやはり「あゝそれなのに」でした。

ちなみに美ち奴さんの「あゝそれなのに」の作曲は古賀政男。曲がヒットしたのは1937年(昭和12年)。『早春』の映画が公開されるほぼ20年前。二人は20年ほど前の、戦前にヒットした曲を覚えていたということですね。

それからもうひとつ。
『早春』で歌われる唄といえば、すぐに「ツーレロ節」が思い浮かぶのですが、美ち奴さんはこの「ツーレロ節」(「シャンラン節」とも言われるそうですね)も歌っていました。小津は美ち奴さんのファンだったんでしょうか。
それにしても『早春』って、まだまだ奥が深いですね。細部にいろんな「仕掛け」が施されているような気がします。
いや、小津が「たまたま」思いついただけなのかもしれませんが。
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by hinaseno | 2014-05-19 08:23 | 雑記 | Comments(0)