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ガラス壜の中の”羊”


昔、ガラス壜の中の船を作ろうと思ったことがあります。
壜の口はせいぜい3センチくらい。その口を通して壜の中に大きな船の模型を作るわけですね。完成した船は絶対に外に出ることはできない。ガラス壜の中の船は、たぶん絶対に外に出ることができないゆえに心を深く打つものがありました。
でも、結局、その作業工程の細かさを知るにつけ、不器用な自分には無理だと判断してあきらめたのですが。

10年ほど前、ときどき立ち寄るようになった古道具屋で、ある日、底の1辺が10センチくらいの四角形の昔のガラス壜を見つけました。壜の口は8センチくらいあります。このガラス壜を横に倒して、壜の口から何かを入れて飾ったら面白いだろうなと思って、ひとつだけ買い求めました。
小さい壜の口から細長い道具を使って何かを作るのではなく、8センチもある口から出来合いのものを入れて飾るという、ずるいといえばずるいのですが。ただ、この中に何かを入れて飾ってみると、絶対外に出すことはできないわけではないのに、何か普通に飾って置くよりも違う”物語”が生まれてくるから不思議です。

でも、考えてみたら船は一度も入れていません。
わりと長い間入れていたのは松ぼっくり。
あるとき、建築家の中村好文さんの本を読んでいたら、室内を移した写真の中に、同じようなガラス壜が飾られていて、その中にわりと大きな松ぼっくりが入れられていて、真似てみただけのことですが。

さて、話はかわって『EACH TIME 30th Anniversary Edition』のこと。
早いところでは昨日くらいから店頭に並んでいるみたいですね。もう購入して聴かれた人もいるのかな。こちらでは今日くらいに店頭に並ぶんでしょうか。
僕が、結果的に大瀧さんの最後の仕事となったこのアルバムで最も聴きたいのは「ガラス壜の中の船」のカラオケ・バージョン。
もう少し言えば、「1969年のドラッグレース」「ガラス壜の中の船」「ペパーミント・ブルー」という並びの中に置かれた「ガラス壜の中の船」のカラオケ・バージョン。

ここでも何度か書いたように思いますが『EACH TIME』はCDになって以降、新しい盤が出るたびに曲順が変えられています。でも、最初にLPのときにB面の1曲目から3曲目であった「1969年のドラッグレース」「ガラス壜の中の船」「ペパーミント・ブルー」という曲の並びは1回の例外を除いて(一度「ガラス壜の中の船」が省かれたCDが発売されていたんですね。知りませんでした。信じられない)変えられることなく維持されています。

この並び、いかにも大瀧さんらしいな、という気がしています。一番思いあたるのはアルバム『大瀧詠一』のB面の1曲目から3曲目。「あつさのせい」「朝寝坊」「水彩画の町」という並びですね。まず1曲目はアタックの強い曲。2曲目にやや引いた感じの”小品”、そして3曲目にメロディックでさわやかな曲。
LPの『EACH TIME』では4曲目に”大作”の「レイクサイドストーリー」が続いていて、それも『大瀧詠一』の4曲目の「乱れ髪」につながるものを感じます。今回の『EACH TIME 30th Anniversary Edition』では間に「恋のナックルボール」が挟み込まれているのですが。

「ガラス壜の中の船」はLPレコードではB面の2曲目。CDではA面もB面もなくなっているのですが、それでもやはり「1969年のドラッグレース」からB面が始まるぞ、という雰囲気はだれもが感じとれるだろうと思います。
そしてそのB面の2曲目に収められた「ガラス壜の中の船」。
B面の2曲目に関しては大瀧さんがこんなことを言っています。『KAWADE 夢ムック 大瀧詠一』に載ったアルバム『大瀧詠一』に関するインタビューで「朝寝坊」について語った言葉。改めて引用しておきます。
位置的にもB面2曲目で、『ロンバケ』の「スピーチ・バルーン」的な評価をされているかもしれない。いわゆる「B2の理論」だね。B面2曲目に小味の効いたものを配置できるかどうかで、アルバムの善し悪しが決まるという。

これも前から何度も言っていることですが、僕が『EACH TIME』の中で、というよりも大瀧さんのすべての曲の中で最も好きなのは「ペパーミントブルー」なのですが、最近ふと思ったのは、その前に「ガラス壜の中の船」があるからこそ、僕は「ペパーミントブルー」に、より強く惹かれたのではないかと。「ガラス壜の中の船」のあの余韻の残るエンディングから青山純さんの軽快なドラムが始まる瞬間の流れがあるからこそ、「ペパーミントブルー」がより輝いて見えたのではないかと。で、それは大瀧さんもはっきりと意図されているんですね。

「ガラス壜の中の船」という曲に関していえば、松本隆さんの書いた詞も、大瀧さんの歌唱もかなり”重い”ものがあって、何となく暗いイメージの曲になっています。フレーズの最初の言葉の音があまり響きの良くない「イ」の段で始まるのが多いことも、どこか行き詰まるような印象を与えているのかもしれません(松本さんは絶対に意識されたはず)。
「ガラス壜の中の船」は本来は「B2」を意識して、『A LONG VACATION』の「スピーチバルーン」のように「小味の効いた」曲にしようとされたのではないかと思います。どこかカントリーっぽい雰囲気もあるような。曲調も「スピーチバルーン」に似ていますね。でも、結果的に松本さんの、男の未練が強く入り込んだ詞ができあがって、大瀧さんもかなり情念を込めた歌唱をしたために、”小品”というには、やや大柄な曲になっています。
ただ、僕はこの「ガラス壜の中の船」の歌詞は個人的には大好きです。『EACH TIME』の中で物語と一体化した風景が最も強く浮かび上がるものになっています。松本さんの経験からきているのかなと思ってみたり。

それはさておき、その松本さんの詞と、大瀧さんの歌唱を取り除いたときに、全く違う風景が見えてくるのではないかという期待があります。大瀧さんが当初思い描いた、ノスタルジックでインティメイトな”小さな”風景が。

というわけで、時間があれば、今日のうちに買って聴いてみたいと思っています。

話は元に戻って、僕の机の前に飾られたガラス壜のこと。
しばらく前から入れていたのは”羊”。
こんな感じですね。
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”羊”といえば村上春樹につながるものがありますが、ガラス壜の中の”羊”は、かなり深遠な物語が感じられます。
壜の中の羊みたい
そうさ君もぼくも…

でも、そろそろ羊くん、外に出してあげないといけないですね。
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by hinaseno | 2014-03-20 09:17 | 雑記 | Comments(0)