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by hinaseno
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CからEmに行けばバリー・マンになるというわけではないけれど


大瀧さんの音楽を聴き続けてきた人で、大瀧さんの曲の中で最も口ずさんだ曲は? と聴かれれば、はたして何を答えられるんでしょうか。
やはり「恋するカレン」? 「君は天然色」はテレビで流れ続けていますが、そんなに気軽に口ずさめる曲ではないはず。
僕の場合はダントツで「Tシャツに口紅」。『EACH TIME』の制作が一時中断したときに、ラッツ&スターのために作られた曲です。



例えば朝早く起きて、東向きの窓のカーテンを開けて、朝日の上りかけた空を見ると、ついこの曲の最初のフレーズが自然に口をついて出てきます。
夜明けだね 青から赤へ 色うつろう空 お前を抱きしめて

もちろんカラオケや、あるいは家でぽろぽろとギターを弾きながらもよく歌いました。
そういえば「Tシャツに口紅」のコードは自分で聴き取って、こんなふうにルーズ・リーフに書いて大瀧さんの楽譜の中に挟んでいました。もうボロボロですが。
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なんでこの曲を一番よく歌ったんだろうと考えるようになって、最近ようやくわかってきたのは、これこそ大瀧さんが言っていた"バリー・マン的な「歌謡」"なんだなということでした。

話はころっと変わって、バリー・マンには及びもしない(あたり前ですが)僕が初めて作った曲の話。
当時勤めていた会社の同僚の結婚式のときに、何か歌ってということになって、せっかくだから曲を作ってみようと。
一応決めていたのはビーチ・ボーイズ・タイプの3連バラードにすること、それからC-Am-F-Gの循環コードを使うこと(つまりはドゥーワップですね)。あとはギターを弾きながら、英語とも日本語ともつかないような言葉をしゃべりながらメロディを作っていきました。
で、メロディはどうにか1週間くらいで完成。次に詞をつける作業。
家にいてはなかなかかけないことが分かったので、仕事の後、知り合いのいなさそうな家からも仕事場からも離れた所にある喫茶店に通って、頭の中にメロディをめぐらせながら詞をつけていきました。帰りの車で、詞のできあがった部分を声を出して歌うということを繰り返して。

ようやく詞も完成して、改めてギターを弾きながら曲を歌ってみようと思ったとき、頭の中で数日めぐらしていたメロディとどこかちがうことに気づきました。正確にいえばCからAmに行っていたはずのところがしっくりこない。
いろいろと確認してみたらAmではなくEmに近くなっていたんですね。曲を作る特にはずっとAmにしていたのに、詞をつけて歌を口ずさんでいるうちにAmではしっくりこないメロディに変化していたという。
まあ単なる情けない話。
というわけで、コードをEmに変更してギターを弾きながら歌を入れたものをカセットテープに録音。会社の同僚の一人に楽譜がかける人がいたのでそれを渡して楽譜にしてもらおうとしたのですが、そのEmに変更した部分が音符にとれないとのこと。音符に表せない音で歌ってたんですね。絶対音階のない頭でメロディを奏でているうちに、いつの間にかずれていった音。

さて、話は「Tシャツに口紅」に。実はこの曲、CからEmに行ってるんですね。
大瀧さんの作った曲でCからEmに行く曲といえば、代表はなんといっても「恋するカレン」。大瀧さん自身、バリー・マン的な「歌謡」をイメージして作った曲であると言っています。ただ、大瀧さんは、「恋するカレン」が『ロンバケ』の中で最も人気があることに、あまり納得されていないようでした。日本という国ではどうしても「歌謡」的なものが評価されてしまうことへの不満。
というわけで、『EACH TIME』では、そのバリー・マン的な「歌謡」をあえて外したんですね。その結果、『EACH TIME』には、親しみやすい曲、ちょっと口ずさみたくなるような曲がなくなってしまった、と。

僕は『EACH TIME』の中の「ペパーミント・ブルー」が死ぬほど好きなのですが、でも、この曲、歌えません。CDに合わせて歌うことはありますが、とてもギターを弾きながら歌えるような曲ではありません(YouTubeでいくつかアップされている人のものを聴いても耐えられない)。

『EACH TIME』の20周年盤が出たときの、2004年の『レコード・コレクターズ』のインタビューで「Tシャツに口紅」について大瀧さんは興味深い発言をされています。実は大瀧さんに最初に曲の依頼が来たとき、そのタイトルは次のように決まっていました。
「め組の人」。
どうやら最初の「いなせだね」という言葉も決まっていたようです。でも、メロディが全然浮ばなくて、結局大瀧さんは曲はできないと断って、井上大輔さんが曲を作ることになります。それが見事大ヒット。で、その次の曲を大瀧さんが作ることになります。
そのつぎの「Tシャツに口紅」は、やらしてもらったんだけど、ああいうタイプが『EACH TIME』に入っててもよかった。そうするともうちょっと目鼻があるものに...。わかりやすい歌謡のものがまったく入ってないからね。難しいものだけになってしまったんだけども。

『EACH TIME』の制作段階ではバリー・マン・タイプの「歌謡」を意識的に避けようとされていたことは確かなようですが、できあがったあとで、偏りすぎてしまったことを少しだけ反省されているような言葉。
僕にとって最初にアナログで出た『EACH TIME』は大好きなアルバムなのですが、その後付け加えられた曲が、やや重く難しめのものが多くなっていたので、正直それらが付け加えられた『Complete EACH TIME』は、あまり好きにはなれませんでした。聴きなじんだ曲順も変えられていましたので。
というわけなので、そんな付け加えられた曲とのバランスを取る意味でも、3月に出る『EACH TIME 30th Anniversary』には「Tシャツに口紅」を入れてもらえたらなと。これが僕の大きな願いではあったのですが。

ちなみにCからEmに行けばバリー・マンになるというわけではないのですが、バリー・マンの曲にはいくつもCからEmに行く曲を見つけることができます。
たとえば、以前「快盗ルビイ」の話ときに紹介したシェリー・フェブレーの「Johnny Loves Me」。



あるいは、トニー・オーランドの「Bless You」。シンシア・ワイルとのコンビで初の大ヒットとなった曲ですね。この曲のメロディの最初の部分は、少し「Tシャツに口紅」に似ているような気がします。



この2曲はいずれも「ゴー!ゴー!ナイアガラ」のバリー・マン特集でもかかった曲。この日にかかったポール・ピーターセンの「My Dad」もCからEmに行っていますね。CからEmに行く曲はキャロル・キングにはいくつかありそうですが、エリー・グリニッチにはきっと一曲もないでしょうね。このあたりのことは、また明日にでも。

ちなみに「Tシャツに口紅」の詞は松本隆さん。
海と夏をテーマにした松本隆さんの詞はどれもロマンチックでたまらないのですが、この「Tシャツに口紅」の歌詞は最高に素敵です。『EACH TIME』の曲の歌詞には救いのないものが多いのですが、この曲には救いがあります。例えばこんな部分。
 仔犬が不思議な眼をして 振り向いて見てたよ

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by hinaseno | 2014-01-12 10:04 | ナイアガラ | Comments(0)