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by hinaseno
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永遠にとけない魔法


今朝の長いブログを書き終えて、一息ついて、明日、新年最初に書くことを少し考えていました。もちろん書くべきことはずっと前から決めていました。
来年の3月21日発売予定の大瀧詠一さんの『EACH TIME 30th Anniversary Edition』についてのこと。
きっと今頃、大瀧さんはやはり来年の3月に放送予定であるはずの「アメリカン・ポップス伝パート5」の準備と並行して、かなりハードな日々を送られている頃だろうなと思っていました。納得できないことはそのままにせず、ぎりぎりまで、できうる限りの準備をし尽される方であることはよく知っていましたので、相当に大変なのではないだろうかと。

前にも書いたように、大瀧さんの『EACH TIME』は、僕が初めて(そして結果的には最初で最後の)リアルタイムで買ったアルバムでした。思い入れは最も強いアルバムと言えるかもしれません。好きな曲はいくつもあります。ひとつひとつの曲にいろんな思い出がくっついています。ただ、後でいろいろわかったことから、これは下手をすればビーチ・ボーイズの『SMiLE』みたいなことになりかねないアルバムだったんではないかと。収拾のつかない未完成の傑作アルバムに。
実際、『EACH TIME』はその後、CDでアルバムが出るつどに、収録曲、曲順を変えていました。完成形というものがあってないようなアルバム。おそらく収録される可能性のある曲のリマスターはすでに済ませられているだろうとは思いながらも、最後に収録曲や曲順を考える作業はしんどいだろうなと。
10年前にブライアン・ウィルソンが自らのバンドで『SMiLE』の制作を始めたとき、その開始直後の映像ではかなり嫌そうなブライアンの姿が映っていました。一度挫折したものに向き合うのは大変な心の力がいります。当時ブライアンは62歳。

大瀧さんはおそらく『EACH TIME』を完成したアルバムだととらえることができないままでいたと思います。で、おそらくその挫折感が次のアルバムを作らせることのなかった最大の要因だったのではないかと勝手に考えていました。
10年ほど前から始められたご自身のアルバムの30th Anniversaryを作る作業(大瀧さん自身はそれを「お墓作り」と表現されていたように思います)もこれで最後。でも、最後の最後のものが相当にやっかいなものだったはず。いったいどんな”お墓”を作ればいいのかと、悩みに悩まれていたはず。

僕がこのブログを始めたときに、ただ一つだけ思っていたことがあります。それは大瀧さんに見てもらえるブログになったらいいなと。
もちろん見てもらえていたかどうかは分からないのですが、2014年になったら『EACH TIME』の勝手な希望を書こうと思っていました。
で、今朝ブログを書き終えて食事をして、『レコード・コレクターズ増刊』に収められた大瀧さんの『EACH TIME』に関するインタビューを久しぶりに読んで、とりあえず、まずは先日亡くなられたドラマーの青山純さん(『EACH TIME』の基音を作った人といえるかもしれません)のことと「魔法の瞳」のことを書こうと、で、その「魔法の瞳」が1曲目に収録されたLPをセットして曲が流れ始めて、パソコンに戻って電源を入れてインターネットに繋いだときに、大瀧さんの急死を知らせる第一報を目にしました。
もちろん最初は自分の目を疑いました。でも、次々に流れてくる報を見て体の震えが止まらなくなり、涙が止めどなく流れてきました。いまだに信じられない。

ここに書いてきたすべてのことは(小津のことはいうまでもなく、荷風や木山捷平のことであっても)、大瀧さんなくしては開くことのなかった扉のむこうにあったことばかり。で、大瀧さんに納得してもらえるように、とまではいかないにしても、大瀧さんににっこりくらいはしてもらえたらということだけを考えて書き続けてきました。

『EACH TIME』はブリティッシュで(「アメリカン・ポップス伝」の後は「ブリティッシュ・ポップス伝」を予定されていたようです)ということで始められたみたいですが、本来明るいもの好きな大瀧さんにしては思いの外暗く、重くなりすぎたようでした。
で、それが大瀧さんの迷いと挫折のもとになっていったのかもしれません。

でも、それらは後で知ったこと。
僕にとっては最も風通しの良かった時期の思い出がいっぱいにつまっているアルバム。
なので、大瀧さんにこのブログを見てもらえることがあれば、できれば最初にLPで出した曲順でアルバムを出してもらえたらなと。後で付け加えられた曲はいろんないきさつがあるにせよボーナストラックにされて。
さらに、『EACH TIME』の音として最初に耳にして心がこれ以上なくときめいた、この渋谷陽一さんの番組の最初にかかった未発表曲も入れて。



それから、できれば『EACH TIME』制作休止中にラッツ&スターのために作った「Tシャツに口紅」の大瀧さんの歌われたものも。
こんな願いを一つ一つしていこうと考えていたのですが、一遍にしてしまいました。天国にいる大瀧さんに怒られそうですね。期待は失望の母である、と。

明るいことが好きな大瀧さんに認められてもらうためには、マイナスの感情を含んだ文章を書いてはいけないと心していたのですが、湿っぽい話になってすみませんでした。
今日ぐらいは許して下さい、大瀧さん。

もっともっと僕の知らないたくさんのことを教えてもらいたかったです。あなたしか開くことのできない扉を、もうだれも開けてくれることはありません。扉の在処さえ示してくれる人もいません。

30年前、初めてリアルタイムで買った『EACH TIME』をターンテーブルに載せて、1曲目のこの曲のヴァースの部分が流れて来たときの心のときめきは今でも忘れません。
日本人でありながらこれだけドリーミーな曲をいくつも作られた人は大瀧さんしかいません。大瀧さんによって音楽に魔法があることを知りました。
永遠にとけない魔法をかけられた僕は本当に幸せでした。


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by hinaseno | 2013-12-31 18:40 | ナイアガラ | Comments(0)