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アゲインで弦楽四重奏による小津安二郎の「早春」を聴く(6)


「ああ、これは弦によるドゥーワップ(Strings Doo Wop)」

これが、モーメント・ストリング・カルテットによる弦楽四重奏を目の当たりにして、頭にひらめいたことでした。

この日のブログでこんなことを書きました。
もし、タイムマシンがあれば、僕が真っ先に行きたいのは、いくつものドゥーワップのグループがデビューを夢見て一生懸命に歌を練習している、50年代後半のアメリカの都市のエコーがきれいに響くストリートコーナーか駅の構内。

こんな夢のようなことを、アゲインという地下の部屋で、4本の弦楽器で再現されるのを体験している気分になっていました。ロマンチックでありながら、とってもスリリング。

4本の楽器があるとはいえ、基本的にはバイオリン系の楽器だけ。似たような音色(ヴォイス)です。チェロはもちろんベース、ヴィオラはテナー、そして2本のヴァイオリンはソプラノ。
ドゥーワップはもともと楽器なんて満足に買うことのできない黒人の若者の間で生まれた音楽。ですから声を楽器代わりにします。ときにはフィンガースナップ、ハンドクラップ、あるいは足踏みなどをして、足りない部分を補います。
そしてもう一つ、いかに呼吸を合わせるか。

モメカルも足りない楽器、たとえばマンドリンやハープ、あるいは打楽器系の木琴などの音色をいろんな方法を駆使して補っていました。もちろん弦を指で弾くピチカートをふんだんに取り入れていましたが、その工夫たるや感心しました(“遊び”もいくつも入っていました。ヴィオラの飯田香さんが出していた機関車の走る音はどうやって出していたんだろう?)。
同じピチカートでもヴァイオリンの出す音と、ヴィオラの出す音と、チェロの出す音はかなり違うんですね。それらを曲によって使い分けたり、あるいはヴァイオリンとチェロ、ヴァイオリンとヴィオラ、ヴィオラとチェロの組み合わせをしたりと、見ているだけでスリリングでした。
そしてもちろん指揮者はいませんから、音を出すタイミングを合わせることにも相当に気を使っているはずなんですが(オーケストラと違って楽器の数が少ないので、少しでもずれたらすぐにわかります)、思っていたほどにはアイコンタクトもしていませんでした。

小澤征爾さんと村上春樹さんの『小澤征爾さんと、音楽について話をする』で、「弦楽四重奏を経験すると音楽の質が高まると言われましたけど、具体的にはどういう風に質が高まるんでしょう」という村上さんの問いに対して、小澤征爾さんがこんな話をされています。
「ごく単純に言いますと、一人で演奏しているときに比べて、耳が四方八方に向けて広がるんです。これは音楽家にとってはすごく大切なことです。もちろんオーケストラでもそれは同じことです。他人のやっていることに耳を澄ませなくてはいけないという意味では。でもね、弦楽四重奏では楽器同士のあいだで、より親密なコミュニケートができるんです。自分が演奏しながら、ほかの楽器の演奏に耳を傾けます。今チェロがいいことをやっているなとか、自分の音がヴィオラと今ひとつ合ってないなとか、それがわかります。そして演奏家のあいだで個人的な意見の交換があります。オーケストラではそういうことはできないですよね。人が多すぎるし、でも四人だけだと、じかに意見が言い合える。そういう身軽さがあります。だから自然とお互いの音楽に耳を澄ませるようになる。そしてそうすることによって、音楽がだんだん優れたものになっていくのがはっきりわかります。つまり実効があるわけです。そうすることで、音楽が深くなっていくんです」

この話、ドゥーワップにも重なりますね。「アメリカン・ポップス伝」でも大瀧さんが語られていましたが、アメリカン・ポップスの優れたソングライターの多くは、たいていドゥーワップを経験しています。何らかのグループに入っていたり、その追っかけをしていたり。そんな経験の中で、音楽の質を高めていったんですね(大瀧さん自身も、達郎さんがドゥーワップのレコードを出してドゥーワップというものが一般に広まるずっと前にドゥーワップをやっています)。

ただ、弦によるドゥーワップという感覚は、もしかしたらモメカル特有のものなのかもしれません。僕が最初にモーメント・ストリング・カルテットというグループに衝撃を受けたのは、例の大瀧さんの「三文ソング」のカバーでした。今にして思えば、これはまさに弦によるドゥーワップ・スタイルのカバーの典型的なものでした。
YouTubeには大瀧さんの曲のいろんなカバーがあふれています。ギター1本からオーケストラまで。でも、モメカルの、この「三文ソング」のカバーは群を抜いていました。大瀧さん自身が見られても、きっと感心されたのではないかと思います。
杉真理さんや伊藤銀次さんが、モメカルをバックにして歌いたいと思ったのも、彼女たちの持っているドゥーワップ的な感覚に反応されたからではないかと考えています。

石川さんからは、以前はメンバーとは別のだれかが曲のアレンジをしているとうかがっていたのですが、今回の小津の曲については、メンバーの小野瀬はるかさんと有馬真帆子さんと飯田香さんと郷田裕美子さんの4人が、5曲ずつくらい分担してアレンジしたそうです。すばらしい。
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by hinaseno | 2013-12-20 09:26 | 雑記 | Comments(0)