Nearest Faraway Place nearestfar.exblog.jp

好きなリンク先を入れてください

Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
プロフィールを見る
画像一覧
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

『早春』と「サセレシア」(1)


『東京暮色』に全編に使われている「サセレシア」という曲についてもう少し。
このアップテンポの曲がどういうところで使われているかを意識してみると、一見、ストーリーと曲調が正反対と思われるようなシーンで使われていることがわかります。
一番驚くのは原節子に妹の有馬稲子が死んだと伝えられた(原節子に妹が亡くなったのは、あなたのせいですと言われたことから自殺だとわかった)山田五十鈴が近所の飲み屋に向かうシーンでこの「サセレシア」が使われているところ。

実は、このシーン、小津が山田五十鈴に対して最も厳しく演技指導したところで、昨日引用した小津が山田五十鈴に言った言葉も、このシーンを撮っているときに言われたもの。しょぼっとした芝居をしたら小津にかなり強く叱られたそうです。
山田五十鈴はこのシーンのために役づくりをします。「憔悴してなきゃいけないと思いまして、ご飯食べなかった」とのこと。一日一食だけというのを何日か続けたそうです。で、撮影所にやってきた山田五十鈴の顔を見るなり、小津は「具合悪いね、今日はやめようか。もっと元気になってきてね。でないと、あのシーン撮れないから」と言って撮影は中止。で、一生懸命食べて撮影所にいったら「ああ、今日、撮ろう」となったそうです。で、小津の口から、例の「常識的な芝居はしないで下さい。人間は悲しいときには笑うんです。おかしいときには泣くんです。それだけは覚えて下さい」という言葉が出るんですね。ここが『東京暮色』の中で最も重要なシーンであることを小津は強く意識していたことがわかります。そしてまさにその最も重要なシーンで「サセレシア」が使われます。
山田五十鈴もこの場面の撮影したときの小津の指導が忘れられないようで(川本三郎さんのインタビューを受けたのは平成7〜8年頃)、こんなことも語られています。
それでね、ご飯一食をやめて、元気になってから大船へ行ったんですよ。小津先生、元気にぽんぽーんとどぶ板を踏んでくれっておっしゃるの。おかしいな、娘が死んだあとにそんなに元気なはずはないんだがと思ったけど、小津先生のおっしゃることだから、ぽんぽーんと飛ぶように歩いていった。それで飲み屋に行って「おじさん、前のどぶ板まだ直さないの」っていわせるんですね。それでおじさんがうしろを向いて、お燗をしながら「ええ、もういつまで経っても直してくれないんですよ」っていうとき、わたくしは手をぐうーっと握りしめると、その手のアップなんです。これだけで娘の死んだことの辛さ、手なんですよ。「常識的な演技はわたしの映画ではしないでください」って、それがあたしの今日に、いちばん役に立っている言葉です。ま、なかなかできませんけどね。でもいつかはそういう芝居したいなと思います。

『早春』でも「サセレシア」はびっくりするような場面で使われています。というよりもこのシーンで使うために作られたのが「サセレシア」という曲なんですね。
使われているのは、三石への転勤が決まり、一方で岸恵子との浮気が発覚して夫婦の関係も危機的な状況になっている中、翌日に亡くなることになる会社の同僚を見舞いに行ったシーン。
a0285828_9154658.jpg

作曲者は斎藤高順。何度か貼った『早春』のテーマソング、それから『東京物語』のテーマソングをはじめ、『東京物語』以降の小津のほとんどの映画の音楽を作られています。

斎藤さんが小津の映画の音楽を最初に手がけた『東京物語』で、興味深いエピソードがあります。それは東山千栄子が原節子のアパートへ一人で泊まりに行くシーンで流れる「夜想曲」というきれいな曲についての話。この映像の2:19から出てくる曲です。



でも、この曲、実際の映画では相当小さな音で流れます。小津の指示だったとのこと。斎藤さんが『東京物語』のためにいろいろ書いた曲の中で、小津が「せっかく書いてくれたんだから、小さく入れるよ」ということだったようです。小津は本当は甘いシーンに甘い音楽をかぶせるというのは、両方が重なってしまって逆効果になってしまうとのことで好まなかったようです。

ちょっと長くなってしまいましたので続きは明日に。
[PR]
by hinaseno | 2013-12-10 09:14 | 映画 | Comments(0)