人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Nearest Faraway Place nearestfar.exblog.jp

好きなリンク先を入れてください

Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno

木山捷平、姫路で”うらなり”に出会う(2)


「あなたが木山で調べたようなことを私もやっているんですよ」
と先日、Yさんからの電話。Yさんとは、木山捷平という作家のことを教えてくれて、姫路の木山捷平と大西重利のことをまとめたものを最初に読んでいただいた人。
「ある有名な作家の、ある有名な小説が、姫路と関わっているんですよ」と。
でも、どこかなぞかけのような口ぶりでなかなか教えてくれません。ただ、どうやら、明治の終わりから昭和の初め頃にかけての姫路のことがいろいろと出てくるらしい。
いくつかなぞかけのような話が続いた後、びっくりするような名前が出てきます。
「夏目漱石なんですよ。夏目漱石の有名な小説っていったら何ですか?」
もちろんその時僕の頭にぱっと浮んだのは、やはり『坊っちゃん』。でも、『坊っちゃん』は何度か読んでいて、そこに姫路が出てきたなんて記憶がありません。
『我が輩は猫である』とか、2、3並べてみましたが、どれもはずれ。
「だれもが、夏目漱石で最初に思い浮かべるものといったら何ですか?」と、楽しそうに繰り返される。
僕が「『坊っちゃん』?」と言うと、「そうなんですよ」と。
すると、次にこんな質問。
「『坊っちゃん』の中の登場人物の名前を覚えていますか?」
「え〜と、赤シャツ、山嵐、野だいこ...」
ここまで出てきて、あとが出ません。
「うらなりという人が出てくるんですが覚えていますか?」
「そういえば、いたような...」あまり記憶が定かでない。
「マドンナの婚約者だったんですが、最後には延岡に転勤させられてしまう人」
「はあ......」
「そのうらなりを主人公にして小説を書いている人がいて、うらなりが延岡の後に姫路に来るようになっているんですよ」
「へ〜っ、その作家ってだれですか?」
「小林信彦」

それを聞いてびっくり。実は僕はその前日に小林信彦が関わった別の本の存在を知って、それが廃刊になっているとわかったので、ネットの中古本を注文したところでした。
Yさんとの電話の後、すぐにJ堂に行きましたが、文庫本で出ているはずの『うらなり』はなかったので、せっかくだから廃刊になっている単行本の『うらなり』を注文しました。この2冊の小林信彦の本は結局同じ日に届くことに。本当はもう一冊の方のことを先に書くつもりでいましたが、『うらなり』の方を先に読み終えました。

『うらなり』が書かれたのは2006年。今から7年前ですね。
正直、びっくりの連続でした。小林信彦さんは、明治の終わりから昭和の初め頃にかけての姫路のことを相当詳しく調べられていることがわかりました。実際に姫路に足を運ばれたわけではないと思いますが、おそらく僕が木山さんの姫路での日々を説明するために使った大正末期から、昭和初期にかけての地図を何度も見られたにちがいありません。

冒頭からびっくりです。小林さん、僕のブログを見たの? と言いたくなるような話から始まります。もちろん『うらなり』の方が先に書かれているのですが。
物語は姫路に住んでいるうらなりが、東京に出てきて何年ぶりかで山嵐に会うシーンから始まります。二人が待ち合わせした場所は、あの服部時計台が見える銀座4丁目の角。
時代は昭和9年。服部時計台ができたのは昭和7年。
この日のブログでも書いていますが、昭和9年の荷風の『断腸亭日乗』にも、服部時計台のことが出てきます。うらなりはもしかしたら、その日銀座で荷風にも会っていたかもしれません。
荷風はこの10年後に、まさにその服部時計台に使われた石の原産地の岡山の万成のすぐ近くに滞在することになるのですが。

さて、小林信彦の『うらなり』の主人公のうらなりが延岡から姫路にやってくる年は、小説には書かれていませんが、はっきりと特定することができます。もちろん小林信彦さんはその年をきちっと限定して、いろいろと調べられた上で小説を書いています。マニアックすぎる。
その年とは明治44年。
そして、姫路でのうらなりは木山さんに大接近することになります。

ちょっとだけ話はそれますが、僕の三石での『早春』の研究や姫路での木山捷平の研究は、大瀧詠一さんの成瀬・小津研究の影響を強く受けてはじめたものです。
その大瀧さんの『成瀬研究』が始まったのが、小林信彦さんの『うらなり』が書かれた翌年の2007年。大瀧さんが『成瀬研究』をはじめる直前に『うらなり』を読んでいた可能性は十分に考えられます。
なぜなら大瀧さんと小林信彦さんは映画に関する話を長年にわたってずっとされてきた間柄ですから。

僕が『うらなり』と同じ日に手に入れたというのは、小林信彦+大瀧詠一責任編集の『小林旭読本』でした。ここまでいろんなものがつながってしまうと笑わざるを得ません。
木山捷平、姫路で”うらなり”に出会う(2)_a0285828_934215.jpg

by hinaseno | 2013-11-21 09:03 | 木山捷平 | Comments(0)