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by hinaseno
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海文堂書店の9月30日


たった今、海文堂書店の平野さんの書かれた”最後の”ブログを読み終えたところ。とにかく毎朝、これを読むのを楽しみにしていたので、明日からその日課がひとつ消えてしまうと思うと、やはりさびしいと言うしかありません。もちろん今日で店がなくなってしまうということもなおさら。
昨日は閉店後にお客さんたちが店の前で「海文堂コール」をされていたとのこと。僕がその場にいたらどうしてたんだろうと思いつつ、でも本当に素敵な言葉は普通の、中くらいの声で出されるもの。ときには聴き取れないくらいの小さな声で。
僕は以前、海文堂で、かなり高齢の男性によってたかなり小さな声で発せられた、とびっきり素敵な言葉を思い出そうとしていたのですが、結局思い出せませんでした。
たぶん何かの本を探してもらっていて、それはかなりおぼつかない言葉で、タイトルもはっきりしない。でも、書店員の人はいらいらすることもなく、いくつもの手がかりのある言葉をゆっくりとひとつひとつ聴き取って、で、この本ではないですかと差し出す。
「ああ、それそれ」という男性の喜びの声。それからその後で何かひとこと言ったんですね。それはあまりにも普通の言葉で、海文堂の中ではちっとも特別なものではなかったんでしょうけど、僕はひどく感動して、その後に立ち寄った喫茶店ですぐに書きとめたのですが、書きとめたものは結局見当たりませんでした。
ネット社会では絶対に聴くことのできない言葉。もちろんその男性はネット社会と関わりを持っていないはずの人。そういう人たちの小さな声で語られる言葉をいつ行っても耳にすることができました。

さて、今朝のブログは最後に松浦弥太郎さんの『さよならは小さい声で』を紹介されていました。
そういえば、先日伺ったとき、「さよなら」に関する本を集めたコーナーが作られていました。もしかしたら、松浦さんの本はそのコーナーに置かれていたのかもしれませんが、さよならは言うのも聴くのも、そしてその言葉を見るのもつらいもの。その日はいろんな棚をじっくり見たのですが、そこだけはあまり目に入れないように通り過ぎました。

平野さんが最後に書かれた言葉。
私は還暦のじいさんなので、松浦弥太郎さんのようにはいかない。
普通の大きさの声で申し上げます。
では、皆さん、さようなら。ありがとう。

「普通の大きさの声で」というのが心に響きます。いや、「普通の大きさの声」だからこそ、たまらない気持ちになります。

...そうだ、僕が閉店後の「海文堂コール」をしている人たちのいる場所にいたら、たぶんこう言っただろうと思います。もちろん中くらいの声で。
神戸の馬鹿やろう

と。


海文堂は船にあふれていました。
僕はこれから先、シャッターで閉じられた海文堂も、そのあとに作られるはずの別の店も見ることはないと思います。元町商店街をあの場所まで西に行くのは、そこに海文堂があったからでしたから。
ですから閉店というものを、具体的な形で見ることはありません。
というわけなので、個人的には海文堂という小さな帆船(あるいはスローボート)は神戸の港から出航したのだと考えることにします。また、いつの日かどこかの港にふっとやってきて新たな店が作られることを願っています。
その時まで、とりあえず、小さな声でさよならを。

最後に一曲。

村上春樹の『1973年のピンボール』にこんな言葉があります。
ある日、何かが僕たちの心を捉える。なんでもいい、些細なことだ。バラの蕾、失くした帽子、子供の頃に気に入っていたセーター、古いジーン・ピットニーのレコード……、もはやどこにも行き場所のないささやかなものたちの羅列だ。二日か三日ばかり、その何かは僕たちの心を彷徨い、そしてもとの場所に戻っていく。

『1973年のピンボール』にはジーン・ピットニーの"作った"曲は2曲出てくるのですが(1960年と1961年を代表する曲)、ジーン・ピットニーの歌った曲は出てきません。
というわけなので、 古いジーン・ピットニーのレコードの中の1曲。
タイトルは「The Ship True Love Goodbye」。全然有名な曲ではないのですが(ベストもののCDには絶対に入っていません)、「ゴー!ゴー!ナイアガラ」のジーン・ピットニー特集で知った最高に素敵な曲です。

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by hinaseno | 2013-09-30 10:08 | 雑記 | Comments(0)