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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
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「こんなきれいな朝がこの世にはあるから」


昨夜もきれいな月が出ていたので、船場川にかかる橋から月の写真を、と思ったのですが、月の角度が高すぎて、川といっしょにとらえることができませんでした。これではどこで撮ったのやら、ですね。でも、ちゃんと船場川にかかる橋から撮ったことだけは確かです。
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ところで、中秋の名月というのは、必ずしも満月というわけではないということを、昨日初めて知りました。でも昨夜は満月。そういうのはめずらしいそうですね。

さて、家に戻って録画していた平川さんの出演された「ハートネットTV」を見ました。これまでパソコンの画面では何度も平川さんの姿を見ていましたが、テレビで見るのははじめて。感激しました。もちろん話されている言葉の一つ一つもすばらしいものでしたが(いつもながら、なんて文学的に、詩的に語られるんだろうと思います)、商店街を歩かれている平川さんの姿にはしびれました。その時の平川さんは隣町探偵をされているときの表情なんですね。それから蒲田近くのトンカツ屋でトンカツを食べている場面もよかったです。
考えてみたら今年は内田先生も、石川さんも、そして平川さんもテレビに出演されました。それぞれの方が、今の時代に必要とされる存在になられていることを痛感する日々です。

さて、昨日、木山さんには月夜をテーマにした詩がいくつもあるということを書きましたが、木山さんの第一詩集である『野』にはこんな、ちょっと不思議な詩が収められています。感嘆符のついた4つの言葉が、三カ所出てくるのが印象的。そして、最後に「姫路」という言葉が出てきます。
  夜刈り

月が明るいので
わしら田園へ出て稲刈つた。
おやぢ!
おかあ!
わし!
妹!
四人ならんで米のなる木刈つた。

米のなる木は刈つたとて
麦のごはんに漬菜のおかず
わしらすぐ腹がぺこぺこになつた

寒い!
ふるへる!
からくり!
搾取!

月が沈んだ。
わしら暗い畷道通つて帰つた。
寂寥!
憤怒!
自棄!
破壊!
姫路の空があかかつた。

詩が書かれたのは昭和3年。
木山さんは昭和3年4月から姫路の北の菅生小学校に勤務しているので、内容から荒川小学校に勤めていた頃に書かれたものではなさそうです。
それにしても不思議な詩。前半はおそらく木山さんの故郷の笠岡での家族揃っての収穫の風景を描いています。

でも、「 寒い! ふるへる! からくり! 搾取!」の「からくり!」から詩の表情が一変。家族と一緒に家に帰っているはずなのに、その幸福感からはかけ離れたきつい言葉が4つ続けられます。「 寂寥! 憤怒! 自棄! 破壊!」。
そしてそのあと、あまりにも唐突に姫路が出てきます。
姫路の空があかかつた。

「あかるかつた」ではなく「あかかつた」なんですね。木山さんが姫路にいるときに抱き続けていた”きつい”気持ちが表れていることは確かなんですが、でも不思議な詩です。

実は、『野』はこの詩が収められている前後は連作のようになっています。
この「夜刈り」の前に収められた、同じ昭和3年に書かれた「男の子と女の子」という詩にも月夜の風景が出てきます。こちらは木山さんの幼い頃の風景を描いた、ほのぼのとした詩です。
  男の子と女の子

そら
ええか
一、二、三……

わしと
とみちゃん
石崖の鼻にならんで
ふるへながら小便ひつた。

わしの小便と
とみちゃんの小便
二本ならんで
芋の葉つぱへぱりぱり落ちた。

「とみちやん、わしの方がちつとよけい飛んだぞ!」
「そら、あんたのはちつと突き出とるもん」

山も
野も
あかるいあかるい月夜であつた。

「ぱりぱり」という音がさすが木山さん。「突き出とる」という言葉は「月出とる」と掛けているようにも思えます。

で、この詩の後に、「月が明るいので」という言葉で次の「夜刈り」の詩が始まります。
そして「夜刈り」に続くのが「白壁」という詩。これも昭和3年に書かれた詩。再び子供の頃の風景に戻るのですが、「夜刈り」の最後に出てきた「寂寥」という言葉が二度使われています。
  白壁

子供の時分
ぬりかへたばかりのお寺の白壁に
大きな落書きをして
和尚にひどく叱られたが――。

あれは愉快な悪戯であつた。
あれは美しい意欲であつた。

この頃
俺等をとりまく大きな寂寥!

神様!
この寂寥をどうしてくれる?
あのやうな白壁を
俺等の前にさしひろげてくれ!


この次の詩には「夜刈り」の詩の最後に出てきた「憤怒」という言葉が何度も出てきます。タイトルは「積つた憤怒」。やはり昭和3年に書かれています。
  積つた憤怒

積り
積り
積り
積もり積つたこの憤怒!

この憤怒はどこて捨つべきか?
この憤怒はどうしたらはらせるか?
いきなり嬶(かかあ)のどてつぱらをけりとばしてやらうか?
否!
丼を皆んなぶつけてわつてやらうか?
否!
酒をたらふく飲んであばれてやらうか?
否!

否!
否!
否!


そしてこの詩の次の次に、昨日触れた「月夜の時雨」が出てきます。
  月夜の時雨

いい月夜だ。

ぱらぱらと
しぐれが過ぎて行つた。

さびしいか?
否!

ひえびえと
しかもまつすぐに
葉の落ちたポプラは立つてゐる。

子供たちが一緒にした小便の音の「ぱりぱり」と時雨の音の「ぱらぱら」が響き合っています。
姫路にいたときの木山さんが絶望に近い葛藤の中にいたことは容易に想像できます。でも、そんなきつい気持ちの中でもユーモアをどこかにしのばせているんですね。

最後に、昭和2年に書かれた木山さんの詩で僕の好きな「朝景色」という詩を載せておきます。「未発表詩篇」の一つ。「船場川」と同じ時期に書かれたものだと思います。もちろん荒川小学校に勤めていた頃に書かれた詩。千代田町辺りから荒川小学校へ登校するときの風景を描いているのかもしれません。
  朝景色

あんなに沢山ふつてゐた雨が
からりとはれて
しづかなそしてきよらかなこの朝景色、
歯をみがきながら
大根畑のなかを歩いてゐると
自分が貧乏なことも
からだが弱いことも
すつかり忘れてしまうてゐた、
それだからああ
こんなきれいな朝がこの世にはあるから
ぼくはまだ生きてゐたいのだつた。


今日のブログのタイトルは、「 荒川小学校の木山さん(7)」にするつもりでしたが、この詩の中の、とびきり素敵な言葉をタイトルに使いました。
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by hinaseno | 2013-09-20 09:46 | 木山捷平 | Comments(0)