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“all good things come to those who wait”


ライル・リッツさんのことをもう少し。

先日、「待てば海路の日和あり」ということを書きましたが、ビーチ・ボーイズ的に「待てば海路の日和あり」といえば、何といっても『ペット・サウンズ・セッションズ』と『スマイル・セッションズ』という2つのボックスが出たときでした。

『スマイル・セッションズ』の最初に収められたブライアンの序文を読むと、ブライアン自身もまさに「待てば海路の日和あり」だったと書いています。英語のことわざにも同じようなものがあるんですね。
“all good things come to those who wait”

さて、そういうボックスを手にすると、もちろん未発表音源を聴くのが最大の目的なのですが、それと同時に詳細なブックレットの、曲ごとのクレジットを見ることも大きな楽しみ。ときどきびっくりするような発見があったりするんですね。

ライル・リッツさんが『ペット・サウンズ』に参加していることを知ったのは村上春樹によってでした。ビーチ・ボーイズの大ファンである村上さんも、もちろん『ペット・サウンズ・セッションズ』が発売されると、すぐにそれを購入されています。村上さんもやはりミュージシャンのクレジットを見て、特にジャズ畑のミュージシャンがどの曲でソロをとっているかをチェックしたみたいですね。で、こんなことを書いていました。例の『スメルジャコフ...』に収められています。
話は戻って『ペット・サウンズ』ですが、ここでベースを弾いているライル・リッツという人は実は知る人ぞ知るジャズ・ウクレレの第一人者なのです。ヴァーヴから1950年代の末頃に2枚のウクレレ・ジャズのレコードを出しています。これはかなりのコレクターズ・アイテムですが、僕は両方持っています(物好きだ)。1枚はレイ・ブラウンとかハーブ・エリスの入ったかなりの本格的なジャズです。
みんなに聴かせると「わあ、ウクレレでジャズをやっているんだ! 面白いですねえ」と最初は感動するんだけど、3曲目くらいになるとだんだん顔がこわばってきて、「まだ、やってるんですか」という感じになります。そういう「ちょっと汗をかいてしまう」中身です。悪くないんだけどね。ウクレレでジャズをやろうという意図そのものにやはり無理がある。
とにかくこの人がそういう事情でウクレレのキャリアをあきらめて、ベーシストとして西海岸でスタジオ・ミュージシャンをやっていたときに、この「ペット・サウンズ」セッションに参加したわけだ。でも1曲だけこのセッションでもウクレレを奏でています(かの名曲「キャロライン・ノー」です)。久しぶりにウクレレが弾けてきっと嬉しかっただろうな。
そういう細かいところを聞き込むと、ますます楽しい「ペット・サウンズ」であります。

というわけで、僕が失くしたのは、この村上さんの持っている2枚のレコードのうちの1枚の方がCDになったものです。もう1枚の方は買おうとしたときには廃盤になっていて、すでにものすごい高値が付いていました(今も)。

ところで、村上さんのライル・リッツに関する話はもう少し続きます。
このライル・リッツさんは最近はハワイに引っ越して、オータさんなんかと楽しくウクレレ・セッションを楽しんでおられるということです。楽しくウクレレを弾きながら余生を送りました……という人生もいいですね。うらやましい。
Rhinoという会社から”Legend of Ukulele”というとてもチャーミングなCDが出ていますが、この中にライル・リッツさんの新しい演奏が収められています。サウス・パシフィック的にレイドバックしたい方は一度聴いてみてください。

僕は「サウス・パシフィック的にレイドバックしたい」と思っている人間ではあるのですが、村上さんが紹介しているCDは持ってはいません。実はこのCDの最後に収められている曲がライル・リッツさんの演奏する「Lulu's Back In Town」。昨日紹介したハリー・ウォーレンの曲ですね。どうやら再録音したようですね。僕は数年前にウクレレを買ったときに、ライル・リッツさんの教則本を買ったのですが(めちゃくちゃ難しい)、その中にライル・リッツさんの演奏したCDが入っていて、そこでも「Lulu's Back In Town」が演奏されていました。「Lulu's Back In Town」はライル・リッツさんのお気に入りのようですね。

ここにライル・リッツさんが最近「Lulu's Back In Town」を演奏している映像があります。石川さんに発見していただきました。帽子をかぶって演奏しているのがライル・リッツさんです。



さて、そのライル・リッツさんはもちろん『スマイル』セッションにも数多く参加しています。
一番のお気に入りは、『スマイル』の後半の1曲目(『スマイル・セッションズ』の2枚組レコードの2枚目の1曲目)である「I Wanna Be Around / Workshop」。
「 I Wanna Be Around」はジョニー・マーサーが書いたジャズのスタンダードですが、ここでは思いっきりシャレたジャズの演奏がなされています。演奏しているのはジム・ゴードン(Dr)、ライル・リッツ(Upright B)、ビル・ピットマン(G)、キャロル・ケイ(G)、ジーン・エステス(Piano, Vibes)。未発表音源では「 I Wanna Be Around」の前に「Jazz」と題された曲も同じメンバーで演奏されています。ちょっとした肩ならしといった感じ。演奏直後のメンバーの笑い声と楽し気な会話も入っていてこれがいいんですね。キャロル・ケイの声は女性なのですぐにわかりますが、もしかしたらライル・リッツさんの声も入っているかもしれません。

さて『スマイル・セッションズ』が出る前の2004年に出たブライアン・ウィルソンの『スマイル』では「 I Wanna Be Around」の歌詞が一節ブライアンよって歌われます。
I wanna be around to pick up the pieces
When somebody breaks your heart
When somebody breaks your heart in two

だれかが君の心を引き裂いたとき、
だれかが君の心を2つに引き裂いたとき、
僕はその壊れた破片を拾い集めるために君のそばにいてあげたい

で、その後に「Workshop」。ここではピアノ(ヴィヴラフォン?)の音に合わせて、いろんな大工道具の音がします。金づちで叩く音、のこぎりをひく音、さらには遠くの方で電気ドリルの音までさまざまな作業場の音が聴こえてきます。最後の方で「Ouch!」なんて叫び声も。金づちで自分の手でも叩いたんでしょうか。
この作業場で電気ドリルの音を出しているのがライル・リッツさん。いろんなことをやって(やらされて)います。

それにしても、バン・ダイク・パークスの難解な詞と、やはり難解なブライアンの曲にはさまれたこの「I Wanna Be Around / Workshop」は、どこかほっとさせられるものがあります。

壊れた心の破片を拾い集めるだけでなく、それを何人もの職人たちの手によって元通りに(にはならないかもしれないけど)修繕してあげる。こういう場面をそっと挟み込んでいるなんて、なんて素敵なんだろうと思ってしまいます。

「I Wanna Be Around / Workshop」はこの音源の27分47秒あたりに出てきます。



ところで、内田百閒のノラは結局どんなに待っても戻ってくることはありませんでした。いろんな手を尽くして待ち続けたんですけど、ダメだったんですね(かわりにクルツという猫がやってくるのですが)。
そういうわけなので、今日、もう一度、ライル・リッツさんのCDを探してみます。
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by hinaseno | 2013-09-03 11:19 | 音楽 | Comments(0)