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by hinaseno

「風立ちぬ」の〈20分の1の神話〉(その2)


リッキー・ネルソンはジェリー・フラーたちと出会って間もなくそれまでのインペリアル・レコードからデッカ・レコードへ移籍します。デッカに移ってからは、ちょっと大人のスタンダードを歌うようになります。というわけなので、デッカ時代のリック・ネルソンはあまり熱心に聴いてきませんでした。いや、ほとんど聴いていなかったというのが正直なところ。ベア・ファミリーから出ているデッカ時代のボックスや、それが出る前に買ったCDを持ってはいたのですが。

実は移籍して間もない時期はまだジェリー・フラーの曲を何曲か録音しているんですね。中でも移籍直後の1963年3月に録音されたこの「For Your Sweet Love」という曲は、例の”チンチキランカンチンキンチャンチャン”リズムを使った素晴らしい曲。邦題は「甘い恋」。ほぼ直訳です。

移籍したと言っても録音場所も演奏メンバーもほぼ同じ。グレン・キャンベルもギターを弾いています。

さて、この「For Your Sweet Love」という曲。あるグループによってすぐにカバーされているんですね。これがとびっきり素敵なんです。歌っているのはカスケーズというグループ。「悲しき雨音」で有名なグループですね。リック・ネルソンの歌ったものと同じ曲ではあるのですが、邦題はなんと「恋の雨音」。歌詞の中に”rain”が出ては来るのですが。

実は僕が「For Your Sweet Love」という曲を聴いたのはリック・ネルソンよりもカスケーズが先。昔から大好きな曲でした。でも、作者のジェリー・フラーのことを今まで考えることはありませんでした。カスケーズのメンバーかその周辺の人だと勝手に考えていました。で、それをリック・ネルソンがカバーしたんだろうと。全然違ってたんですね。今回のリック・ネルソンの話も、その全然違ってたってところから始まっていました。
きっかけはカスケーズの「For Your Sweet Love」でした。
もちろん大好きな曲で以前から何度も聴いていたのですが、ひと月ほど前に久しぶりに聴いた時に、おやっと思ったんですね。なんか「風立ちぬ」に通じるものがあるなと。ちょうどピーター・デ・アンジェルスのサウンドと「風立ちぬ」のつながりを考えていたときでした。
するといくつかの興味深いものが見つかったんですね。
カスケーズの「For Your Sweet Love」のアレンジャーはペリー・ボトキン・ジュニア。あの雨音サウンドを作った人ですね。あるいはオールディーズを愛する人の多くの人が最高のサマー・ソングと考えているロビン・ワードの「ワンダフル・サマー」の曲を作り、その最高にロマンチックなアレンジをしているのもペリー・ボトキン・ジュニア。

そのペリー・ボトキン・ジュニアは、あのフランキー・アヴァロンのこの「Sleeping Beauty」という曲のアレンジをしているのがわかったのですが、これが見事なピーター・デ・アンジェリスの「ヴィーナス」サウンド。

ジェリー・ラガヴォイのときと同様に、おそらくはそばにピーター・デ・アンジェリスがいたんでしょうね。一生懸命に真似ている感じがします。でも不思議とその後の彼のスタイルになる、あの爽やかな雨音サウンドも少し聴き取ることができます。ピーター・デ・アンジェリスのサウンドを学んだ上で、独自のサウンドを生み出していたんですね。

それからもう一つ。大瀧さんは『ロンバケ』を作る前にスラップスティックという声優のグループにいくつかの曲を提供していているのですが、それらはのちに大瀧さん自身の曲に作り直されているんですね。
たとえばこの「海辺のジュリエット」という曲は「恋するカレン」の一部にそのまま使われています。

あるいはこの「デッキ・チェア」という曲はほぼそのまま「スピーチ・バルーン」ですね。

そんなスラップスティックに大瀧さんが提供した曲に「星空のプレリュード」という曲があります。

この曲は大瀧さん自身の曲には使われていないのですが、よく聴くと「風立ちぬ」につながるメロディを聴き取ることができます。おもしろいのはそのアレンジ。
アレンジは大瀧さんではなく、完全にお任せだったはずなのですが、もろにカスケーズの「悲しき雨音」と「恋の雨音(For Your Sweet Love)」のアレンジを使っているんですね。

改めてよく聴いてみると「星空のプレリュード」のメロディはどこか「For Your Sweet Love」に似ているところもあるような気がします。アレンジャーの人がそれを感じとってあのアレンジにしたのか、もしかしたら大瀧さんがアレンジャーの人にカスケーズみたいな感じでお願いしますと言ったのかはわかりませんが。

そのあたりのいきさつは別として、あのメロディにカスケーズ・サウンドが結構ぴったりと合っていることは確か。で、その「星空のプレリュード」を原型にして作ったように思われる「風立ちぬ」に、カスケーズの「For Your Sweet Love」のサウンドを少し取り入れたのではないかと。ただ、もとを辿ればカスケーズの「For Your Sweet Love」のサウンドもピーター・デ・アンジェリスの「ヴィーナス」サウンドをもとにして作られたものではあるのですが。

というわけで、「風立ちぬ」の〈20分の1の神話〉(その2)でした。
by hinaseno | 2013-07-25 09:11 | ナイアガラ | Comments(0)