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by hinaseno

魅惑のピーター・デ・アンジェリスの世界(5)


というわけで、本当におこがましいと知りつつ、大瀧さんになってみて「風立ちぬ」がどういう形でできていったかを考えてみたいと思います。先に言っておきますが、あくまで「仮説」です。

その前に、昨日、ちょっと記念すべきことが。
全体の訪問者が1万人を超えたんですね。
自分が見たものはカウントされないようになっているので、ちょうど1万人に達したところを写真に収めておこうと思ったのですが、昨日ブログを更新した後で朝食をとっているうちに、超えてしまいました。
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ブログを始めたのが昨年の9月の始めでしたから、ほぼ10か月。
何かのきっかけでこのブログを見たにしても、おそらくはすぐに飽きられたり、呆れられたりしたことになったはずで、それを考えると、こんなに読まれることになるとはとびっくりしています。見ていただいている方に心より感謝します。

さて、今日書くことがそれらの方に喜ばれる内容になっているのか、スルーされるものになるのかはわかりませんが、僕自身にとってはこういうのが書けるときが来たのを心からうれしく思っています。ここに書いたことの少しでも来月に放送される大瀧さんのアメリカン・ポップス伝パート4で語られることがあれば何よりの幸せです。

大瀧さんのもとに「白いパラソル」に続く松田聖子の新曲の依頼が来たのは1981年のたぶん今頃、夏の初め頃の時期ではないかと思います。当時松田聖子は3か月に1曲のペースで新曲を発表していたので、次の新曲が発売されるのは10月、つまり秋の歌となるべき曲。で、おそらくその新曲はCM(グリコのポッキー)で使われることも決まっていたので、作詞家である松本隆さんにはCMで使う映像が見せられていて(高原で女の子がひとりでポッキーを食べるもの)、それをもとにして松本さんが先に詞を書いて、それを大瀧さんに渡したようです。松本隆、大瀧詠一コンビとしては数少ない詞先の曲。
詞先の曲というのは、自分の好きなようにメロディを作れないので、何かの曲をいただいて曲を作りました、ということはできないんですね。
『ロンバケ』以降、初めて他人に提供する曲、しかもそれが発売すれば必ず売り上げ1位になる松田聖子の曲であること、さらにはその曲はCMにも使われる。当時大瀧さんは33歳。かなりのプレッシャーがあったのではないかと思います。

松田聖子の曲として依頼が来たとき、大瀧さんは松田聖子の声質と、彼女にどういうタイプの曲が一番似合うかを考えるために、松田聖子の過去の作品をいろいろと聴いたはず。その中でこれはと思ったのが、この日のブログで触れた平尾昌晃作曲の「Eighteen」という曲だったと思います。僕はその日のブログでこれをB面の曲と書いていますが、あとで調べたらこれは「風は秋色」と両A面の曲だったんですね。というわけなので、テレビの歌番組でもこの曲を結構歌っていますね。例えばこの映像。もしかしたら大瀧さんはすでにテレビで彼女がこの曲を歌っているのを見ていたかも知れません。

この「Eighteen」を聴いて、大瀧さんはすぐにそれがジョディ・サンズの「With All My Heart」をもとにした曲だとわかっただろうと思います。ピーター・デ・アンジェリスがボブ・マルクーチと作った曲。アレンジももちろんピーター・デ・アンジェリス。

大瀧さんは、よし、これで行こうと思われたはず。ピーター・デ・アンジェリスのサウンド。
で、ピーター・デ・アンジェリスの手がけた曲といえば何といってもフランキー・アヴァロンの「ヴィーナス」。その「ヴィーナス」サウンドで曲を作ろうと。和歌の世界の言葉、あるいは上田秋成の『雨月物語』になぞらえて言えば、「風立ちぬ」は「ヴィーナス」を本歌としたんですね。

そういえば今年の3月に放送されたアメリカン・ポップス伝パート3で、この「ヴィーナス」がかかったのですが、いろんな意味で印象的な音源になっていました。
まず、曲が始まる前に、スタジオ内のやりとりが少し入っています。ミュージシャンが音を確認したり、いくつかの言葉が交わされたり(『ロング・バケーション』の1曲目の「君は天然色」の最初の部分にもそんなスタジオ内のやりとりが少し入っていますね)。
その部分で言葉を発しているのはピーター・デ・アンジェリスではないかと思うのですが、こんな音源、いったい大瀧さんどこで見つけてきたんでしょうか。僕なりにいろいろ探してみたんですけどわかりませんでした。
それから曲は1番だけ歌われて終わるのですが、途中で切ったわけでもないのに、きちんとエンディングが入っています。たぶん大瀧さんが編集されたんでしょうね。

いずれにしても、この曲のかけられ方、使われた音源、編集のされ方を見ると、「ヴィーナス」という曲が、アメリカン・ポップス史とともに、大瀧詠一作品ヒストリーを考える上で、いかに重要なものであったかをはっきりと示しているように思いました。
by hinaseno | 2013-07-13 09:47 | 音楽 | Comments(0)