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by hinaseno

『ダイヴィング・プール』と、廊下に雪が積もった日のこと


先日来、荷風が岡山大空襲の日に逃げて来た場所近くにあった高校として何度か操山高校(岡山大空襲があった昭和20年当時は岡山県第一岡山高等女学校という名称)を書いたので、ここの高校の出身者はだれがいるんだろうとウィキペディアで調べてみました。へえ〜と思う人が何人かいました。

まず高等女学校時代は吉行あぐり、それから人見絹枝(この人と有森裕子が岡山の女子マラソンの歴史を作っていますね)。
操山高校になってからをみるとぱっと目を引いたのは政治学者の山口二郎。そうだったんだ。グラフィック・デザイナーの原研哉もいますね。川口真や小六禮次郎などの作曲者もいます。川口真は中学時代の担任の恩師でもあった人。それから、たけし軍団にいた大森うたえもんや木下サーカスの社長の名前も。
政治家ではみんなの党の江田憲司、そして姫井由美子(...)。

森下町に住んでいた小川洋子さんが通っていたのは操山高校ではなく、少し南の朝日高校です。
その小川洋子さんが幼い頃に生活していたのが森下町にある金光教の教会。そこで小川さんが生活した風景はいろんな小説に現れていますが、すぐに思いつくのは何といっても「ダイヴィング・プール」(もともとは『冷めない紅茶』、現在は中公文庫の『完璧な病室』に収録)。
小川さんの中で最も好きな短編小説です。ちょっと残酷な場面もある小説なのですが、でも読後感は本当に清々しいものがあります。村上春樹の初期の短編小説に似たものがありますね。もちろん小川さんはそれらの影響を強く受けていたわけですが。

「ダイヴィング・プール」で主人公たちの回想の風景として、とても美しい場面が出てきます。主人公の高校生の二人(純と彩)が暮らしているのは教会とひかり園という名の幼い子供の面倒を見る施設がいっしょになった建物。そこでの幼い頃のある日のことを思い出す場面。
「ねえ、この廊下に雪が積もった日のこと覚えてる?」
 わたしはタイルを流れてゆく泡を見ながら言った。
「雪が積もった? この廊下に?」
 純はわたしの横顔を覗き込んだ。
「そう。十年くらい前よ。その日、何だかわくわくするような夢を見てて、それですごく早く目が覚めちゃったの。窓の外を見たら大雪だったわ。今まで見たこともないくらい、何もかもが徹底的に真っ白だったの。子供部屋のみんなは、まだ誰も起きてなかったわ。わたし、ワーって叫びたいような気分でベッドを飛び出して、階段を走って降りたの。そうしたら、ここの廊下が真っ白だったのよ。端から端までびっちり。廊下に雪が積もってたのよ。」
「本当? そんなことがあったかな。でも、どうして家の中に雪が積もったりしたんだろう。」
「廊下の屋根にすきまができてたのよ。そこから雨漏りするみたいに雪が吹き込んだの。雪が溶けた後、修理屋さんが来て屋根の上で板打ち付けてるのまで覚えているわ。ねえ、まだ思い出せない?」

二人のこの日の回想場面はもう少し続きます。とても素敵な場面です。
建物の廊下に雪が積もった日の場面は、実際に小川さんが生活していた金光教の教会で本当にあった出来事をもとにして書かれているんですね。

さて、その金光教の教会。だいたいの場所は以前から知っていて、何度もすぐ近くを通ってはいたのですが、建物のある場所まで行くのは今回が初めて。ちょっとややこしい道に入らないといけないので、五車堂さんに目印となる建物を書き込んだ地図をいただいて歩いて向かいました。五車堂さんから歩いて10分くらいの距離。

鉄筋の二階建ての建物。おそらく最近建て直されたんでしょうね。雪が降り込むなんて考えられないようなきれいな建物でした。正直、ちょっと残念。

小川さんの「ダイヴィング・プール」は英語にも訳されています。でも、たぶん最初に訳されたのはフランス語のはず。 フランス語のタイトルは「La Piscine」。 小川洋子さんの本が海外で翻訳出版されたのはまずフランスだったんですね。そのあと英語でも翻訳されています。今、アメリカやフランスのアマゾンで調べたら、かなり多くの本が訳されています。
フランス語で、あるいは英語で読んだ人は、教会やひかり園の建物をどんなふうにイメージするんでしょうね。ちなみに英語では「教会」はもちろんChurch、「ひかり園」はLight Houseになっていました。
『ダイヴィング・プール』と、廊下に雪が積もった日のこと_a0285828_965684.jpg

by hinaseno | 2013-07-03 09:10 | 雑記 | Comments(0)