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by hinaseno
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小津安二郎の『早春』と『断腸亭日乗』(その8)


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もし、『断腸亭日乗』を一つの物語としてみたならば、その物語のクライマックスはというと、一般的には昭和20年3月9日に記された東京大空襲による偏奇館焼亡ということになるのでしょうか。
岡山県人である自分としては、同年7月13日に妹尾崎に行って敬愛する成島柳北のことを思い浮かべ、9月5日にたまたま滞在することになった家で柳北の「航薇日記」を発見するというところがこれ以上ない場面ではあるのですが。

でも、偏奇館焼失以降の荷風の日々を辿ると、やはり荷風を敬愛する谷崎潤一郎の度重なる荷風に対する支援に心うたれることになります。僕自身、これまでほとんど谷崎の本を読んできませんでしたが、『断腸亭日乗』を読んで(といってもはじめから全部読んだわけではありませんが)谷崎という人を好きになり、本を読んでみなければという気持ちにさせられてしまいます。
もともと谷崎のファンであった小津も、『断腸亭日乗』を読み終えて、改めて谷崎を久しぶりに読んでみたくなったのだろうと思います。

小津が読んだ本を改めて順番に並べてみます。

①『黒白』。犯罪小説のようです。
②『鬼の面』。これは書生経験のある谷崎の自伝的な小説。
③『蓼喰う虫』。破綻した夫婦の関係を描いた小説。
④『卍』。先日も書きましたが、谷崎なんてまったく知らなかった大学時代に友人から「すごいよ」と薦められた本。女性の同性愛を描いた小説。でも、記憶がほとんど残っていません。やはり破綻しかけている夫婦の関係を描いた作品といえるのでしょうか。
⑤『青春物語』。これは小説ではなく随筆集。学生時代から文壇に登場した頃までの回想記ですね。
⑥『初昔 きのふけふ』。これは『初昔』と『きのふけふ』という2つの随筆集を1冊にまとめた本のようですね。「初昔」は身辺雑記。「きのふけふ」は文壇を始め様々な人との交流を描いた作品。

さて、倦怠期を迎えた夫婦を描いた『早春』との関わりを考えれば『蓼喰う虫』や『卍』がどこかでつながっているのかと思えないわけでもありませんが、これは改めて読んでみなければ何ともいえません。

ただ、結論的に言えば、小津は谷崎潤一郎の何かの作品、あるいは荷風の何かの作品のある部分を"頂戴して"映画に取り込むようなことは絶対にしないだろうと思います。もしあるとすれば、『東京物語』のように荷風が愛した荒川放水路を映画の一場面として使うといったような、物語の中の一瞬の風景をそっと入れるということくらいではないかと思います。

小津の戦後の対談で、荷風や谷崎について語ったものがありましたので、それを引用しておきます。いずれも『小津安二郎戦後語録集成』に収められています。
まずは『早春』が公開された3年後の『週刊読売』1959(昭和34年)年5月31日号に載った近藤日出造との対談。

近藤「小津さん、荷風作品の映画化はなさいませんでしたね」
小津「しません、荷風文学の愛読者ですけど。溝口君は『渡り鳥いつ帰る』を映画化しましたね。それから『腕くらべ』をやるという話がありましたけれどもね。荷風先生のものはコンストラクションもからんで、大変、映画向きだと思います。しかし荷風先生は、ご自分のものが映画なんかになるのはキライだったんですよ」

それからこちらは戦後間もない『映画春秋』1947年(昭和22年)4月15日に載った志賀直哉らとの対談の言葉。

「東宝で『細雪』を撮るという話があるのでひそかに憤慨しているのです。身のほどを知らぬ奴等だという気がしまして......。つまらない小説の場合なら話は別ですけど......」

これらを読む限り、小津が敬愛する作家の作品のある部分を"頂戴して"映画をつくるとはとても考えられません。もし取り入れるなら、やはり何か別の形で。
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by hinaseno | 2013-04-26 09:49 | 映画 | Comments(0)