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by hinaseno
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小津安二郎の『早春』と『断腸亭日乗』(その7)


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タイトルからはちょっとそれた話が続きました。でも、『早春』という映画を考える上でおさえておいたほうがいいかなと思って書いておきました。考え過ぎだと言われればそれまでですが。

さて、話は再び『全日記 小津安二郎』に。
『断腸亭日乗』を読み終えてから、『早春』を制作するまでの日々。実はものすごく興味深いことがあります。『断腸亭日乗』読了直後からとりかかった『東京物語』の撮影が完成までは、それにかかりっきりの日々がしばらく続いたはずですが、それ以後もまだ小津は『断腸亭日乗』の影響を持ち続けていたんだなと感じさせること。

ちょっと繰り返しにないますが、改めてこの時期の日記の確認を。
まず、 1953(昭和28年)の6月ごろに『断腸亭日乗』を集中的に読み、6月14日に読み終わります。で、翌15日から『東京物語』のロケハンを開始。ここから日記はほぼ半年分欠落。

で、翌1954(昭和29年)8月27日に「兵隊の話」を思いついて「ラスト出来」て、次の作品のタイトルを『早春』に決めます。
そして10月10日に「配役決定」。
小津は配役を決めてからストーリーを考えるみたいですが、実際にそれを書き始めるのは翌1955(昭和30年)2月下旬から。

この間、小津はある作家の本をむさぼるように読んでいます。
その作家の本を読み始めたのは、まさに配役を決定した日の翌日の10月11日。その日からひと月余りの間にタイトルがわかるものだけで6冊(作品)読んでいます。登場人物の大まかな設定とストーリーの大きな流れと配役を決めて、さあこれからストーリーを細かく組み立てていこうというときに読んでいるんですね。『早春』の映画につながる何かを探し求めていたとしか思えません。
その作家とは、このブログでも何度も書いてきた人。
『断腸亭日乗』の、荷風の岡山の日々に深く関わっている作家、谷崎潤一郎。

小津の日記をずらっと書き並べておきます。

10月10日(日)「配役決定」
10月11日(月)「谷崎潤一郎〈黒白〉などよむ」
10月24日(日)「夜 谷崎潤一郎の小説をよむ」
10月29日(金)「谷崎潤一郎の鬼の面よむ」
11月1日(月)「夜半〈蓼喰ふ虫〉をよむ」
11月4日(木)「谷崎氏卍をよむ 再読」
11月6日(金)「卍をよみつゞく」
11月17日(水)「谷崎氏〈青春物語〉再読 読了」
11月20日(土)「谷崎氏〈初昔 きのふけふ〉再読読了」


「再読」というのは、小津は昔から谷崎が好きで、若いときにかなり谷崎の作品を読んでいたんですね。谷崎の全集を持っていたのかもしれません。
ちなみにここにあげられた本で僕が読んだことがあるのは『卍』だけ。大学時代に友人に勧められて読んだような気がします。

ちょっと興味深いのは、谷崎の作品を読み終えてからふた月あまり後の日記にこんな記述があること。

1955(昭和30年)1月10日(月)「夜 荷風全集をよむ」

久しぶりに荷風を手にとっています。作品名が書かれていないので、何を読んだのかはわかりませんが、"何か"を確認したのかもしれません。
そしてその2週間くらい後の日記に「そろそろ仕事で昼寝もよくねられなくなる」と書いているので、どうやらストーリーはほぼ固まったんでしょうね。で、そのあと林芙美子の『めし』と成瀬巳喜男の映画のシナリオを読み、いよいよ『早春』の「仕事」にとりかかります。

まさに『早春』のストーリーを固める段階に、小津の頭の中には荷風と谷崎がいたんですね。
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by hinaseno | 2013-04-25 10:03 | 映画 | Comments(0)