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by hinaseno
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小津安二郎の『早春』と『断腸亭日乗』(その5)


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昨日、実はもう少し別のことを書いていて、長くなったのでカットしたのですが、それをカットしたならば、もうちょっとカットしなければならない部分があったことにあとで気づきました。
「こういち」の話です。

昨日すでに「しょうじ三部作」には「こういち」という名前の人物が出ていると書いてしまいました。実際にはそれを説明する部分をその前に書いていたのですが、そこをカットしたんですね。

「こういち」は『麦秋』と『東京物語』では「しょうじ(省二・昌二)」の兄として登場しています。それでは、『早春』では、というと、正二(池部良)の兄としてではなく、妻である淡島千景の弟として「こういち」が登場しています。シナリオを見ると「幸一」という字が与えられています。『東京物語』の兄と同じ字ですね。演じているのは田浦正巳。就職を控えた大学生という役。
それ以前の作品では「しょうじ」の兄に与えていた名前を妻の弟に与えている。適当と言えば適当なのかもしれませんし、そこに何らかの意味が込められているのかもしれません。

先日、小津は『めし』のシナリオを読んで、説明が多すぎるから感心しない、という感想を持ったことを書きましたが、この映画にはまったく説明されていない「不在」の存在をうっすらと見ることができます。それ以前の作品では「しょうじ」が「不在」の存在として描かれていましたが、今度はその逆。

それを考える前に、『早春』で「正二」についてわかっていることを書き並べておきたいと思います。

・年齢は32歳。これはシナリオにはっきりと書かれていました。ただ、映画でも彼の同期で会社に入った人間が亡くなったときに、その年齢が「32〜33歳」と映画の中で語られていましたのでおよその年齢はわかるようになっています。
・東京の丸ビルにある「東亜耐火煉瓦会社」に勤めているサラリーマン。
・淡島千景演じる昌子という名前の妻がいる。恋愛結婚のような感じもします。
・子供はいない。ただし、生まれて間もなく疫痢でなくなったと映画の中で語られています。
・住んでいるのは蒲田。映画で語られるのは「蒲田」という言葉だけですが、「六郷の土手」という言葉が何度か出てきますので、蒲田の南の方になるのでしょうか。この場所の特定はまた改めて、というか僕にはちょっと限界があるので、いつか「隣町探偵団」で探っていただけたらと思っています。
・住んでいる家は借家、どうやら妻の実家の母親の知り合いに借りているようですので、結婚してから住むようになったと思われます。
a0285828_1142068.jpg・読書好きというのも随所に示されています。朝、よく知った仲間が集まってくる駅のこの場面でも一人新聞を読んでいます。家の中の場面では本がいくつも並んだ本棚が写りますし、引っ越しのときにはいらなくなった何冊もの本を近くに住む友人に与えています。妻を東京において三石にやって来たときには、夜、誰にも会わずにひとりで部屋で本ばかり読んでいるということが語られます。
自営業をしている兵隊仲間からは、おまえは学問があるというようなことを言われているので、おそらくは大学に行っていて、大学を卒業して会社に入社したと思われます。ということは、大学のときに兵隊に行ったということになりますね。
・笠智衆演じる会社の上司、小野寺を心から慕っていて、彼に仲人をしてもらっているようなので、結婚は戦争が終わって兵隊から戻って会社に入社してのち、ということですね。ちなみに映画では笠智衆は滋賀県の大津に”とばされた”形になっています。で、自分も小野寺さんの側の人間だから風当たりが強いです、という会話がなされているので、同じ会社の中でも、出世のためならどんなことでもできる人間(池部良に三石行きを告げる中村伸郎はこちら側ですね)と、それができない人間に分けられていて、笠智衆演じる小野寺はもちろん後者。しゃべる言葉にも深みがあるので、”文学”を持っている感じがします。 池部良(正二)が慕うのもそのあたりに理由がありそうです。

映画からわかるのはこれくらいでしょうか。
もう一つ言えば、「正二」にはどこか陰がある。みんなで集まって騒いでいるときでも、気持ちは常に一歩引いている感じがします。ここにはまったく説明されていない”何か”があるそうです。
それが「正二(しょうじ)」という名前に隠されているように思います。
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by hinaseno | 2013-04-23 11:05 | 映画 | Comments(0)