Nearest Faraway Place nearestfar.exblog.jp

好きなリンク先を入れてください

Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno
プロフィールを見る
画像一覧
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

小津安二郎の『早春』と『断腸亭日乗』(その2)


a0285828_1328829.jpg

相変わらずこれを書いているときには、『早春』のテーマソングを流し続けているのですが、ただ自分にとって大切な映画のテーマソングだからというわけでなく、これを聴いていると本当にたまらない気分になってしまうんです。
で、今朝、この曲には僕が愛してやまない曲の要素が含まれていると、突然に気づいたんです。

ひとつはヴィヴァルディの『四季』の「冬」の第2楽章。
これですね。


ヴィヴァルディの『四季』の「冬」の第2楽章というのは、まさに僕がクラシックに目覚めた曲でした。ヴィヴァルディの『四季』といえば、掃除の時間に使われ続けている「春」の第1楽章があまりにも有名というか、それしか知らない人も多いと思うのですが、というか僕もそうだったのですが、確か大学時代にクラシックに詳しい友人の家で初めてヴィヴァルディの『四季』を全曲聴いて、特に「冬」に衝撃を受けたんです。
で、すぐにレコードを買いました。イ・ムジチの演奏するもの。B面に収められた「冬」ばかり聴いていました。「冬」の第1楽章も大好きなのですが、厳しい冬の中の陽だまりのような第2楽章をたまらなく好きになってしまいました。

小津の『早春』のテーマソングを作曲したのは斉藤高順という人。『東京物語』から小津の映画音楽を手がけています。いわゆる小津調というのはこの人によって作り出されていると言っても過言ではないですね。
小津から『早春』というタイトルを聴いて、寒さの厳しい冬から春に向かう少しだけ暖かくなっていくイメージを思い浮かべていたときに、もしかしたらこのヴィヴァルディの『四季』の「冬」の第2楽章が浮かんだのかもしれません。
ヴァイオリンのピチカートの使い方、それから曲が始まって1分くらいのところで聴かれるメロディの終り方は、そっくりそのままという気がします。絶対に意識して作ったと思います。どこかに書かれているでしょうか?

それからもうひとつ。
曲の最初の1フレーズのメロディ。これ、大瀧さんの『恋するカレン』の最初の「キャンドルを」のメロディとまったく同じですね。びっくりしました。もちろんたまたまには違いないとは思いますが、もし、大瀧さんが『恋するカレン』を作るときに『早春』のこのフレーズを意識的に使ったということであれば、最高にうれしいですね。

いずれにしても、いろんな運命的なことが重なっている『早春』の音楽にも、僕の大好きな曲とのつながりを発見することができました。曲を好きにならないはずがないですね。

ところで、昨日触れた、もし池部良が『東京物語』に出ていたとすれば、その与えられた役は、という話ですが、それは兵隊として戦争に行って亡くなった(戻ってこないままになっている)原節子の夫、昌二(しょうじ)。

「しょうじ」の話はまた改めて書くとして、映画ではこの亡くなった昌二の写真が一瞬写ります。原節子の住んでいるアパートに笠智衆と東山千栄子が初めて訪ねて行ったこの場面。写真を見ると、ちっとも池部良ではありません。当たり前ですね。
a0285828_10491382.jpg


先日、その昌二の兄の、長男である山村聰(役名は幸一)の病院のあった場所のことを書きました。東京の東の端の荒川放水路の堀切橋付近ですね。それからその妹の杉村春子(役名は志げ)の美容院のある場所もおそらくはそこからそんなに離れてはいない。
興味深いのは原節子が暮らしていたアパートがどこにあるかということ。でも、映画ではその手がかりになるのはほとんどありません。川本三郎さんは『銀幕の東京』の注の部分で「原節子の住んでいるアパートはその形態から見て横浜市西区平沼町にあった同潤会アパートと思われる」と書かれていますが、あくまでそれは撮影に使われたアパートの場所で、映画として設定された場所はそんなに遠くないはず。

映画の中で、唯一そのアパートのあった場所が示されるのはこの場面。あくまで方角と言うことですが。
原節子が上京してきた笠智衆と東山千栄子をはとバスに載せて東京案内する場面があります。ここで服部時計台も写ります。あの世界的な映画である『東京物語』に岡山の万成石が出てるんですね。それはさておき、原節子は銀座3丁目にある松屋というデパートに2人を連れて行き、その展望台から東京を見せるんですね。で、外にある階段を下りる途中で3人は立ち止り、こんなやりとりがなされます。

「お義兄さまのお宅はこっちの方ですわ」

こう原節子は言って、左の、かなり遠くの方を指差します。この場面ですね。
a0285828_10504311.jpg


で、東山千栄子が「志げのとこぁ?」と訊くと、原節子は、

「お義姉さまのおうちは、さぁ、この辺りでしょうか」

と言って、同じ方向のやや近い所を指差します。

次に、東山千栄子が「あんたのとこぁ?」と訊きます。すると原節子はその場所では指差せないために階段の踊り場の右側の方に移動しながらこう言います。
a0285828_10512225.jpg


「わたくしのところはこちらですわ。この見当になりますかしら」

で、彼女のアパートの方向を指差します。
a0285828_1052171.jpg


山村聰の病院とは真反対のかなり遠くの方。その方向にある東京といえば、そう、『早春』で池部良と淡島千景が住んでいる蒲田や、あるいは岸恵子と池部良が一夜を過ごした大森のある大田区の方向ですね。
このあと原節子はこう付け加えます。

「とっても汚いとこですけど、およろしかったらお帰りによっていただいて」

「とっても汚いとこ」というのはアパートのことなのかもしれませが、彼女の暮す町のことを言ったのかもしれません。『早春』の冒頭では、淡島千景が向かいに住んでいる杉村春子とゴミのことで区に文句を言っている場面があります。当時の蒲田のあたりの町の汚さをさらっと示しています。

原節子のアパートを特定するもう一つの手がかりがこの場面。
a0285828_1052626.jpg

笠智衆と東山千栄子が原節子のアパートで食事をするのですが、会話が途切れたこの場面で電車の通る音が聴こえます。せいぜい2、3両の電車。2、3両の電車が通っている鉄道の沿線。もしかしたら今、平川克美さんが探偵作業を進められている池上線か目蒲線?
そういえば平川さんは先日紹介した『隣町探偵団』で、池上線と目蒲線についてこんなことを書かれていました。

「わたしたちが子どもだった昭和三十年代はどちらもこげ茶色の三両連結だった」

小津はもちろん原節子のアパートの場所をきっちりと設定していたはず。何となく僕はそれは池上線か目蒲線の沿線ではないかと考えています。あくまで僕の希望的な観測に過ぎないのですが、今日書いたことはその希望的な観測の中でしか発見できなかったこと。

長くなりました。
次回は「しょうじ」の話になると思います。
[PR]
by hinaseno | 2013-04-20 10:56 | 映画 | Comments(0)