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by hinaseno
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小津安二郎と『断腸亭日乗』(その3)


昨日あったうれしいことを少し。
ひとつは村上春樹の新作に関する話。
前に1日1章ずつ読んでいると書きましたが、ちょっとがまんできなくて今は2章か3章ずつ読むようになっています。現在はちょうど真ん中あたり。

その昨日読んだ所で以前だったら絶対に気づけなかったうれしいことが書かれていたんですね。
登場人物の二人が銀座で会うという場面があるのですが、その待ち合わせに指定した場所が、「四丁目の交差点の近く」だったんです。
銀座4丁目の交差点近くといえば、そう、例の服部時計台(現在の和光)がある場所。村上さんの新作では時計台のことは触れられていませんでしたが、僕が読みながら頭の中に描いていた映像の中には、岡山の万成石で作られた時計台の建物がきっちり収まっていました。

もうひとつは、これです。
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「隣町探偵団」と「凱風館日乗」。
前からお知らせしなければと思っていたのですが、できればこの2つが並んだ日にしようと思っていて、昨日それが実現したんですね。
現在、ミシマ社という出版社のサイトで「ミシマガジン」というものがリニューアルされて(前からちょこちょこ覗いていましたが)、新しい連載がいくつか始まったんです。個人的にはこの2つが何といってもたまらなくうれしいものでした。

「隣町探偵団」は、ここでも何度か書いてきたように平川克美さんが現在お住まいの地域近辺の探偵報告です。その報告は朝日新聞で連載されていた「路地裏人生論」でなされていたのですが、その連載も先月で終わり。残念だなと思っていたら、何とすぐに再開されたんですね。タイトルもそのものズバリ「隣町探偵団」。
しかもこの探偵の対象がたまらないんです。小津安二郎の昭和7年の作品『生まれてはみたけれど』。そのロケ地がまさに平川さんの隣町だったんですね。
僕もこの『生まれてはみたけれど』を観てすっかりその魅力にはまったばかりでしたので本当にタイムリーな企画。興味津々です。

それから「凱風館日乗」を書かれているのは内田樹先生(先日、市内に講演にみえられて、初めて実物を拝見させていただきました)。「凱風館日乗」は、その内田先生の日々の出来事を日記の形式で書いたものです。凱風館は内田先生の住居兼道場の名前です。
それにしてもこのタイトル。荷風の「断腸亭日乗」を意識されていることは間違いないですね。
今、僕は小津安二郎の映画と荷風の『断腸亭日乗』のことを書いているのですが、それと同時並行的に尊敬する平川さんと内田先生お二人が、小津の映画とその舞台になっている場所の話を書き、『断腸亭日乗』を意識された日記を書かれているということが起こっているわけです。これ以上の喜びはありません。

そういえば荷風の敬愛した成島柳北のことを初めて知ったのは内田先生によってでした。一時期、内田先生はブログに成島柳北のことをいろいろと書かれていたんですね。成島柳北のことを知るためにいくつもの本を集められたとのこと。ぜひいつの日か一冊の本になった内田先生の成島柳北論を読んでみたいと思っています。
成島柳北に触れた内田先生のこの日のブログの最後にはこんなことが書かれています。

惜しむらくは、現代日本人のうちに柳北の文を解する国語能力を備えたものがすみやかに『絶滅危惧種』になりつつあることである。
小学校から英語を教えるよりも漢詩の音読でもさせた方が日本人の知的能力の向上には資するところが大きいだろうと私は思うが、もちろん同意してくれる人はどこにもいないのである。


もちろん僕はこれに心から同意している一人ではあるのですが(丸谷才一さんも『文章読本』で同じような主張をされています)、なんか国の偉い人は、美しい日本を守るとか言いながら、一方で英語が大事、英語が大事って、どんどん美しい日本語から子供たちを引き離そうとする政策を推し進めています。
正直僕も「柳北の文を解する国語能力を備え」ているとは到底言えないのですが、そこには「絶滅」させるのはあまりにももったいない豊潤なものがあることは理解できます。今後はぜひ『航薇日記』以外の成島柳北の本も読んでみようと思っています。
そういえば僕の勝手な希望としては、内田先生の「凱風館日乗」は文語体で書いてほしかったのですが。

話は再び平川さんの「隣町探偵団」のことに。
平川さんが今回調査の対象にされている『生まれてはみたけれど』の舞台は東京の南西の大森区の蒲田近辺。平川さんや内田先生、そしてアゲインの石川さんが子供の頃に過ごされた場所のまさに「隣町」なんですね(もしかしたら過ごされていた場所も映画に出てきているのかもしれません)。
大森区の蒲田近辺は僕にとって前からずっと気になっている場所でした。なぜなら僕のライフワークである小津の『早春』の池部良が三石に来る前に住んでいた場所がやはり大森区の蒲田近辺に設定されているからです。
ただ、昭和7年の『生まれてはみたけれど』と昭和31年に作られた『早春』の間には戦争があります。実際、この蒲田付近は昭和20年4月15日の空襲で壊滅的な被害を受けているとのこと。建物で残っているものはおそらく何もないはず。ただ、あくまで個人的な直感としてなのですが、この2つの映画はどこかで深くつながっているように思っているんです。それはまた改めて書いてみたいと思っています。その"つながり"を発見する上でも、平川さんの「隣町探偵団」は貴重なものになるだろうと確信しています。

それは別として、僕はいつの間にか、まさに『生まれてはみたけれど』の舞台となっているあたりの町を、一度も行ったこともないのに愛するようになっています。
川本三郎さんの『それぞれの東京』(2011年)の「あとがき」にこんな言葉があります(以前にも一度引用しました)。

大都市である東京も、よく見れば小さな町、歩いて暮らすことの出来る「わが町」の集積である。大きな東京の中の小さな東京にこそ惹かれる。


まさにこの言葉の通り、僕はあの近辺を大きな東京の中の「小さな町」、「歩いて暮らすことの出来る『わが町』」として見ています。一度も行ったことのない人間の勝手なイメージで言えば、あのあたりは「小さな町」というよりも「スモールタウン」といった雰囲気があります。
その意味では『生まれてはみたけれど』は、東京の中の理想的な「スモールタウン」を描いた映画のように思っています。ある意味架空の、ある意味東京の郊外に実在した「スモールタウン」を舞台にした映画。

ああ、たくさん書きすぎて、本題に戻れなくなってしまいました。
ちなみに現在、小津に関する文章を書いているときにパソコンから流し続けているのは、小津の『東京物語』と『早春』のテーマソングです。この音源は以前に、アゲインの石川さんから送っていただいたものです。
『早春』のテーマソングはとにかく最高です。これですね。イントロのマンドリンの音がたまらないです(『早春』のテーマソングなのに、貼られている画像は『秋刀魚の味』。ちゃんとしてください)。

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by hinaseno | 2013-04-17 10:50 | 映画 | Comments(0)