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by hinaseno
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小津安二郎と『断腸亭日乗』(その1)


きのう小津安二郎の誕生日を調べるためにウィキペディアを見たら、あることに気がつきました。今まで何度もそのページは見ていたのですが。
小津は生まれた日と亡くなった日が同じだったんですね(生没同日というそうです)。12月12日。こういう人って、いったいどれくらいいるんだろう。確率的には365分の1ではあるような気がするので、それなりの数はいるんでしょうけど。

それはさておき、何度か書いてきたことですが小津安二郎はある時期、荷風の『断腸亭日乗』を集中的に読んでいました。興味深いのはそれを読んだ時期。

1953(昭和28年) 4月8日(水)の小津の日記にはこのような記述があります。

駅前の本屋によつて荷風全集などの金を払ひ帰る
とにかく書き始める 熱海の海岸のところから書きこのシーンを上げる


川本三郎さんの『荷風と東京』によれば、これは中央公論社の『荷風全集』(全24巻)とのこと。これをこの日に買ったのか、あるいはその数日前に買っていてお金をこの日に払ったのか。いずれにしても小津はこの頃に『荷風全集』を手に入れています。そして何といっても目がいくのはこの後の部分。

とにかく書き始める 熱海の海岸のところから書きこのシーンを上げる


これは言うまでもなくあの『東京物語』のことですね。頭の中では物語は出来上がっていて、どうやらこの日からシナリオを書き始めているようです。それが「熱海の海岸のところから」というのが興味深いです。『東京物語』の最も印象的なシーンの舞台とした熱海に荷風が一時期暮らしていたことを知ったとき、小津はやはり運命的なものを感じたのではないでしょうか。荷風自身も成島柳北との運命的なつながりを確認した場所ですからね。

で、次に小津の日記に荷風が出てくるのはその1か月後の5月9日。

枕頭灯を掲げ荷風日乗をよむ 巻をおくあたわず 興味津々として窓外すでに白む


小津は『荷風全集』を第1巻から読んだわけではなく、その最後の方の第19巻から第22巻に収められていた『断腸亭日乗』から読み始めているんですね。6月11日の小津の日記には「駅前本屋にて荷風全集前期十二冊を購ふ 前年大船の火事にて焼失したれバ也」と書かれているので、4月8日に買ったのは後期分。つまり第13巻から24巻だったんでしょうね。おそらくおめあては『断腸亭日乗』であったことがわかります。

さて5月9日以降の小津の日記に『断腸亭日乗』を読んだことが書かれている部分を全部列挙してみます。

6月1日「うたゝねののちひとり夜白むまで荷風日乗をよむ」
6月3日「読書深更に至る」(この日は読んだ本の書名は書かれていませんが、間違いなく『断腸亭日乗』のはず)
6月5日「荷風日乗を読む」
6月7日「一日床の中にて荷風日乗をよむ」
6月8日「蓐中に荷風日乗をよむ 夕餐を喫し 蓐中荷風日乗をよみつゞく 四更に至る」
6月9日「夕食ののち またしても荷風日乗をよむ」
6月10日「たゞちに就床 またしても枕上荷風日乗をよみつゞく」
6月11日「荷風日乗よみつゞけること例の如し」
6月12日「就床 枕上荷風日乗をよむ」
6月14日「荷風日乗二十二巻よみ終る」


というわけで、6月上旬に一気に読んでいるのがわかります。
実は6月2日の日記にはこんなことが書かれています。

高村所長に会ふ カンヌ映画祭より帰りて始めて成 脚本〈東京物語〉面白しとのこと成


どうやら5月の末くらいにシナリオは完成していて、それが完成したので荷風の『断腸亭日乗』を一気に読んだんですね。もう一つ興味深いのは『日乗』を全部読み終えた6月14日の翌日の6月15日の日記。

細雨 ロケーションハンチング 第1日


まさに小津は荷風の『断腸亭日乗』を読み終えるのを待って、『東京物語』のロケハンを始めているんです。

その後、『東京物語』が完成するまでの日々(『東京物語』の公開はこの年の11月3日)がとても気になるのですが、残念ながら『小津安二郎 全日記』ではこの年の日記は6月19日までで、6月22日からその年の最後までの日記は欠落しています。最も読みたい所ではあるのですが。
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by hinaseno | 2013-04-15 09:28 | 映画 | Comments(0)