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Talks About Music, Books, Cinema ... and Niagara


by hinaseno

  面白いのは内容じゃなくて語り口


石川さんは内田先生、平川さんと中学からの同級生で、後に1977年に平川さんの始められた翻訳会社に内田先生とともに勤められるようになります。たぶん平川さんが会社を始められるということで旧知の信頼のおける人に声をかけられたのだろうと思います。中学校を卒業されてからはおそらくは何年かは会っていなかったようですから久しぶりの再会ですね。

その久しぶりに再会された頃、内田先生と石川さんはこんな会話を交わされています。お互いに音楽好きであることはわかっていましたから、音楽についての話をされるなかでのことだったんでしょう。内田先生(当時は先生ではありませんでしたが)が石川さんにこう告げます。たぶん静かに、ほかの人には聴かれてはならないような内緒声に近かったのではないかと思います。あくまで内田先生経由で読んだ(聴いた?)話をもとに勝手にイメージを膨らませただけのことですが。

「実は、今、俺、大瀧詠一という人に興味を持っているんだ」


この言葉を聞いて石川さんはおそらく目を丸くして軽い叫び声をあげながらこう答えます。うれしいよりも信じられない気持ちが強すぎて怒りに近い声になっていたかもしれません。

「なんでその名前を知ってるんだ!」


石川さんと同様、内田先生も「ゴー!ゴー!ナイアガラ」を聴いていたんですね。当時、地方ローカルの、それも深夜に放送されていた番組を聴いていた人間はそんなにいなかったはずです。大瀧さんも当時は無名に近い人でしたから。石川さんも、内田先生もだれに話すことなく(話せる相手もなく)深夜ひっそりと聴いていた番組を、すぐ目の前の幼なじみが熱心に聴いているのを知ったのですから。

これが例えば、どちらかだけが「ゴー!ゴー!ナイアガラ」を聴いていて、再会した時に、最近おもしろいラジオ番組を聴いているんだって、もう一人に教えて二人で聴くようになったというのであれば、よくありがちな話として終るのですが、そうではないんですね。この二人の出会い方もナイアガラ的です。はっきりしていることは、この出会いがなければ、今の『大瀧詠一的』という番組は存在しえなかったってことですね。

ちなみに二人は社長である幼なじみの平川さんに、当時からずっと大瀧詠一という人がいかにすごいかをことあるごとに説き続けていたのですが、どうやら平川さんは自分から積極的に大瀧さんのラジオや音楽を耳に入れようとはされなかったようです。これも後のことを考えれば重要な要素ではなかったかと思います。三人ともが大瀧さんの崇拝者だったのではなく、一人はただの大瀧さんをただの年上の人としか見ていなかったということ。このことが『大瀧詠一的』というものを何倍もおもしろくしているんですね。

さて、先日の話に戻します。僕が別の時期に、何の関係もなくたまたま知り、それぞれに尊敬の気持ちを抱くようになった二人が僕の中でつながる日がついにやってきます。

  面白いのは内容じゃなくて語り口_a0285828_10501249.png内田先生が『ユリイカ』に文章を書いてからほぼ1年後の 2005年8月21日。その日、内田先生が大瀧さんと対談したんですね。そしてその場に同席したのが石川さん。これがその日の内田先生のブログに載っている写真です。真ん中が大瀧さん、左が石川さん、右が内田先生。

たぶん、この日かその2日前に書かれた内田先生のブログを読んで、僕はそれ以前にも内田先生のブログで何度も登場していた石川さんという人を確認したように思います。たぶん、内田先生のリンク・ページで、それ以前から見慣れていた石川さんのページに入ったんだと思います(僕は日頃どんな人であれリンク・ページを見ないんです。きっとそういう形で、秋につながりを知るというのが好きではないんでしょうね)。びっくり、ってものではなかったですね。まったく何の関係もなく手にとったものがつながるというのはときどきは起こるものだとは思います。でも、この結びつきは僕の中ではあまりにも奇跡的な物語でした。世の中はいったいどうなっているんだろうと思いました。

  面白いのは内容じゃなくて語り口_a0285828_10521824.jpgちなみにこの日の対談は2005年の11月に発行されたKAWADE夢ムック『総特集 大瀧詠一』に収録され、昨年出たKAWADE夢ムック『増補新版 大瀧詠一』に再録されています。ただ、いずれも収録日の日付は2005年8月16日となっていて、間違っていますね。

ところで、また話が少しそれますが、大瀧さんが長嶋のファンであることは前にも書きましたが、その長嶋がドラフトでくじを引いて、まさに手塩にかけて育てた松井秀喜選手に対しても大瀧さんはデビュー当時から関心を持たれていて、この日の対談でも音楽の話の中で松井に少し触れています。

「松井でも打席に入る前にスウィングしているだけで調子がわかる。今日は上手く歌えそうだとかダメだといったことは歌う前にわかるんだよね」


大瀧さんは、松井のことをまるで自分の息子を見るようなまなざしで見続けていました。松井の引退に関しての大瀧さんの言葉がどこかで聴けたらと思っています。

さて、話はもう少し僕にとって驚くような方向に進んでいきます。

  面白いのは内容じゃなくて語り口_a0285828_1055303.jpg僕が毎日見続けていたブログの1つに、ペット・サウンズというレコード店の「今日のこの1曲」というものがあります。店長の森勉さんは、音楽雑誌でレコード評などを書かれている人で、昔から知っていて、あるときにこの店のサイトがあるのを知って毎日見るようになっていました。たった1度だけですが通販で購入したこともあります。The Teen Queensというグループの『Eddie My Love』というCD。たぶん、その日の「今日のこの1曲」に紹介されていて欲しくなって買ったんだと思います。また、偶然の話を書いてしまいますが、昨夜、いろんな作業が終ってやっとゆっくりできたので、少し前に石川さんから送っていただいた「ゴー!ゴー!ナイアガラ」の1976年3月23日に放送されていたものを聴いていたら、このThe Teen Queensの「Eddie My Love」という曲がかかっていました。別に僕が希望したものではないのですが、本当に不思議です。

話がまたそれてしまいましたが、ペット・サウンズのブログを見ていたある日、店のあった場所のビルを取り壊すということを知りました。店はどうなるんだろうと心配したら仮店舗を作って営業が再開、それからしばらくして新店舗が東京の武蔵小山に作られ再オープンします。2007年の3月。調べてみたら、僕がペット・サウンズ・レコードでCDを買ったのはこの年の4月。やはりお店の再開がうれしかったんでしょうね。

驚いたのは、ペット・サウンズが再オープンしたとき、そのペット・サウンズのビルの地下1階で、なんと石川さんが店を開くことになるんですね。それがライブ・カフェ・アゲイン。これにも本当にびっくりしました。

で、この年の暮れにそのアゲインで、内田先生、石川さん、平川さんの3人が揃って大瀧さんとの対談が収録されることになります。信じられないことが次々に続いて、ついにここまできたわけです。この日の音源がアップされたときは本当にうれしかったですね。大瀧さんの声が聴けるのももちろんうれしかったですが、石川さんの声を聴いたのもこのときがはじめて。そして内田先生、平川さん、石川さんの幼馴染みのノリも楽しかったですね。

そしてその『大瀧詠一的』も今年が5回目。ついに大瀧さんの、あの福生のスタジオに3人が行って収録ということに。これも僕にとっては感動的なことでした。もちろんうらやましくて仕方がないことでしたが、でも、自分もその場に参加できているような気持ちになれるものでした。

『大瀧詠一的』の楽しみ方を、もし一つだけあげるとするならば、内田先生や石川さんのような昔からの大瀧さんの崇拝者とは違って、大瀧詠一という人のことをほとんど知らない平川克美さんが、大瀧さんとの対談を重ねる中で、いくつもの(半端ではない)驚きとともに、しだいに大瀧さんの魅力に惹きつけられていき、大瀧さんを「師」と呼ぶようになるほどに変わっていく姿を見れることではないでしょうか。大瀧さんという人のすごさもあると思いますが、60歳を超えられて、なお、そのようになれる平川さんもすごいとしか言えません。

もし、まだ聴かれてない人がいらっしゃったら、ぜひ、第1回から聴いて欲しいですね。何を言っているのかわからないことが多いですが、でもおもしろいんです。で、おもしろくて何度も何度も聴いているうちにだんだんとものごとがわかってくる。そうすると、さらにおもしろくなるし、同時に大瀧詠一という人のすごさもわかってくる。僕も最初は映画の話とか、東京の町の話なんてちんぷんかんぷんでしたから。

内田先生と大瀧さんの対談の最後で大瀧さんはこう語られています。

「面白いのは内容じゃなくて語り口」


内容ももちろん面白いんですけどね。でも、語り口って大事です。

というわけで、この物語もとりあえずは今日で終りにします。きっと、だれも興味を持たれないような、僕個人の物語でした。でも、一度書いておきたかったんです。最後まで読んでいただいた人は、心より感謝します。

それから、石川さん、内田先生、平川さん、そしてこのような奇跡的なつながりを用意していただいた大瀧さんにも心から感謝の意を伝えたいと思います。

では、また来年。
よいお年を。
Commented by 39nemon at 2012-12-31 23:55 x
"ペット・サウンズ"の地下が"アゲイン"というのは知っていましたが、そんな経緯があるとびっくりですね。それに、うれしいもんですよね。今後も石川さん、内田先生、平川さんの、このトライアングルは再登場されそうですね。なんかたのしみです。
...今年もあと僅か、ほぼ毎日面白味のある記事を読せて頂きありがとうございました。拙いコメントでごめんなさい。流行風邪に気を付けて、よいお年をお迎えください。
Commented by hinaseno at 2013-01-01 22:12
あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしく。おっしゃる通り、今後も石川さん、内田先生、平川さんの話は何度も出てくると思います。
by hinaseno | 2012-12-31 11:07 | 全体 | Comments(2)