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by hinaseno
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「たった一人の友」大西重利をさがして


先日のブログで、木山捷平が昭和2年に書いた「秋」という詩を引用しました。
その年、木山捷平が姫路で自費出版した『野人』に収められたものです。改めて引用します。

僕等にとつて
秋はしづかなよろこびだ。


僕が五銭が煎餅を買つて
ひよこ ひよこ と
この土地でのたつた一人の友を訪ねると
友は
口のこはれた湯呑で
あつい番茶をのませてくれる。

あゝ さびしくも
貧しいなりはいのなつかしさ。

前にも少し触れましたが、この詩は2年後の昭和4年に内藤鋠策の抒情詩社から出版された木山捷平の第1詩集『野』に同じ題名で収められているのですが、言葉が少し変えられています。現在発売されている講談社文芸文庫の『木山捷平全詩集』には『野』の「秋」が収められているだけで、『野人』の「秋」は「未発表詩篇」にも含まれていません。

ここで、『野』に収められた「秋」を引用します。

僕等にとつて
秋はしづかなよろこびだ。


僕が五銭がせんべいを買つて
ひよこ ひよこ と
この土地でたつた一人の友を訪ねると
友は
口のこはれた湯呑で
あつい番茶をのませてくれた。

ああ 友!
秋!
貧しい暮しもなつかしく。

前にも指摘した通り、最も顕著な違いは『野人』の「秋」では現在形になっていたところが、2年後の『野』の「秋」では過去形に変えられていることです。
『野』には『野人』に収められた詩がいくつも収録されています。言葉が新たに足されたり、あるいは削られたり、別の表現に変えられたりと、変更が加えられた部分をいくつも見ることができます。でも、現在から過去へと時制を変えられているのは、この「秋」だけのように思います。

そして、この『野』の「秋」の最も大きな"変更"は、題名の横に次のような副題が付けられていることです。
「―大西重利に―」

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実は先日、岡山の吉備路文学館へ行ってきました。木山さんの奥さんのみさをさんから寄贈された木山さんの数多くの遺品が収められています。現在は木山捷平の展示がされていないのですが、ご厚意で『野人』と『野』の原本を見せていただくことができました。木山さんが実際に所有されていたものでしたので、それに触れたときは正直手が震えました。
上に載せた写真は『野』の原本を開いたものです。「―大西重利に―」という言葉が見えると思います。

大西重利。
「秋」の詩にあえて添えられていることから考えれば、彼が「この土地で(の)たつた一人の友」であったことは間違いないでしょう。そして、もしかしたら彼こそが「南畝町228と288」の謎を解き明かす鍵となる人物なのかも知れません。
大西重利という名で調べると次のような人物が存在することがわかりました。
大正14年に姫路の宝文館という出版社から『童詩集すずめ』という本を出した人に同名の人物がいます。年代的なこと、詩人であること、そして姫路の出版社から詩集を出していることから、木山さんとの接点は十分にありそうな気がします。その詩集が手に入って発行人の住所がわかればいろいろなものが解けてくるかもしれません。

それからもう一つ。これは今朝わかったことなのですが、同じ大正14年に桜井祐男という人が設立した「芦屋児童の村(当初は御影児童の村)」という「新教育」の運動に関わり、後に教師になった人物に大西重利という人物がいることもわかりました。この大西重利は桜井が主催する『教育文芸』という同人誌にいくつか文章も寄稿しています。芦屋は姫路と同じ兵庫県内。児童の教育に関わっていたことから考えると『童詩集すずめ』を出版した人とおそらくは同一人物ではないかと思います。

大正末期から昭和初期に起こったという「新教育」の運動に関しては全く知りませんでしたが、ほぼ同じ時期、西條八十や北原白秋や野口雨情らが関わっていた「新童謡」運動があったことは少し知っています。大西重利が詩を書いていたとすれば、この「新童謡」の運動にも何らかの形で関わっていたのかもしれません。
そして前に触れた、木山捷平が大正11年に姫路の師範学校を抜け出して上京して会いに行き、後に木山さんの『野』を出版することになる抒情詩社の内藤鋠策も「新童謡」の運動に関わっていた可能性は十分にあります。

見えない糸が少しずつつながり始めている気がします。
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by hinaseno | 2012-09-25 09:11 | 木山捷平 | Comments(0)