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by hinaseno
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小津安二郎の「早春」と三石(その4)


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「早春」の映画に出てくる、池部良の三石での生活をとらえた3つめの場面。映画のクライマックスです。
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下宿に戻った池部良は「ただいま」と1階にいるはずの人(大家さん)に声をかけて、家の中にある階段を使って2階に上がっていきます。彼がこの家の2階に下宿していることがわかります。


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で、これが2階の下宿している部屋に上がってきた場面。襖に女性のワンピースがかけられていて、その下には大きめの鞄がいくつか置かれています。池部良には気づかない形で、すでに奥さんである淡島千景が三石にやってきていることを映画を見ている人に知らせています。おもしろいですね。

そして手前の部屋に入ってきてしばらくして池部良はそれらがあることに気づきます。この瞬間の彼の表情も含めて、僕はこの場面がたまらなく好きです。
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で、淡島千景が階段から上がってきて、2人は三石で再会します。
そしてこんな会話が交わされます。
「狭い町だぜ」
「さっき買い物に出て見てきたわ」
「ここで2、3年も暮すとなると、大変だよ」
「そうね、でもいいわよ、お互いに気が変わって」

a0285828_9442768.jpgこの後、汽笛が聞こえて2人は並んで下宿の2階の窓から汽車が走る線路を眺めます。この映画の最大のクライマックスです。






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ここで池部良が淡島千景をそっと抱き寄せて汽車を眺める場面は、「早春」の映画を代表する場面として、僕の持っているDVDの表紙を含めて最もよく使われています。






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この2階の部屋から2人が見つめている上りの汽車が走る風景が先日示したこの場面です。ある意味では「早春」という映画の最も大事な場面といえるかもしれません。小津が三石にやってきて、まず探したのは山間の町を汽車が走る風景を最もいい場所を探すことだったのでしょう。

僕は池部良の下宿のあった場所を見つけたとき、そこが山陽本線に近すぎることがすぐにわかりました。あの場面はここにあったはずの家の2階からとらえられた風景ではないと。セットだったんですね。あの2階は。
三石での歓迎レセプションのときの写真を見てもわかるように、淡島千景は三石には来ていなかったんですね。まだ、あの場所を確認する前、淡島千景のインタビューなどいろいろ探していたのですが、三石に関する話が一切見つからないはずでした(池部良は著作も多く、「早春」や三石に関する話をいくつも書いていますが)。

いずれにしても、池部良の下宿のあった場所と、その家の2階から見えることになっている上りの汽車が走る風景が見える場所は、同じである必要はなかったんですね。あの風景が見れて、あのような間取りの2階の部屋がある家を三石で探すのは不可能でしょう。
ですから、小津はあの風景が見れる場所をまず見つけて、そこに櫓を建てたんですね。2階の高さになるように。これはこれですごいことのように思います。映画の中でのほんの数秒の場面であるならば、ロケハンで決めた場所にカメラを固定して撮ってもいいように思いますが、あえて2階であることを示すために櫓を建てて撮影した。その2メートルくらいの高さの違いからとらえられた風景の違いがわかる人なんてだれもいないように思うのですが。でも、あえてわざわざあの櫓を建てた。
この櫓を建てた場所は必ず探してみたいと思っています(一度かなり時間をかけて探してみたのですが見つかりませんでした)。

さて、では下宿のあった家はどのようにして選ばれたのでしょうか。
煙突のある工場から近い場所で選ばれたのだとは思いますが、「瀬戸内シネマ散歩」に載っていた写真で示したように、下宿とされた津村さんの家は平屋でした。もちろん映画では建物の入り口付近しか映っていませんので、2階建か平屋かはわからないのですが、2階建の家を探して、その2階建の家を映像で見せた上で、セットの場面を使ってもよかったように思うのですが。
でも、いうまでもなく背後に煙突が何本か見える場所としてあの場所がベストだったんでしょう。そしてあの辺りには都合のいい2階建の家はなかったのでしょう。
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by hinaseno | 2012-09-13 10:09 | 映画 | Comments(0)