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by hinaseno
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小津安二郎の「早春」と三石(その2)


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57年前の今日、つまり1955年(昭和30年)の9月11日(日)の小津の日記にはこう書かれています。

三石 快晴 撮影おハる
池部 岡山にゆく

「早春」はモノクロの映画で、映画の中では、東京駅前にある丸ビルの中にある東亜耐火煉瓦という会社の東京本社から地方の山間の小さな町である三石にやってくることになった池部良の憂鬱な心境を含めて考えれば、前日の曇り空の方が、沈んだ雰囲気を出せるように勝手に考えてしまうのですが、小津はやはり快晴の日を撮影に選んでいるんですね。

「早春」が三石を舞台にしていることを知るきっかけになった本は川本三郎さんの「銀幕の東京」(1999年)です。この本をきっかけに大瀧さんは成瀬研究をされたんですね。僕も結果的にはこの本をきっかけに「早春」、三石研究(研究と言うには遠く及びませんが)を始めることになりました。
それから2005年に出た川本さんの「旅先でビール」という本には、2004年の7月に川本さんが三石を訪ねたときのエッセイがあり、とても参考になりました。

つい先日、三石を訪れたとき、公民館の館長の方から鷹取洋二という岡山在住の人が書いた「瀬戸内シネマ散歩」(吉備人出版)という本があることを教えていただきました。これは岡山周辺で撮られた映画のロケ地を訪ね歩いた本なのですが、この中に「早春」を扱った章がありました。3年前(2009年)に出た本ですが、そこには後で触れることになる貴重な写真と、撮影当時三石の工場で働いていてロケの世話をしたという人のインタビューが載っていました。

そのインタビューに答えられた馬場さんという方の話によれば、撮影の日、小津からは三石にある煙突(20本くらいはあったはず)から一斉に煙を出してほしいとの注文があったとのこと、しかも”モクモクと立ち上る黒煙”を出すようにということだったようです。
今では三石には耐火煉瓦の会社は2社しか残っていないそうですが、当時は数十社も会社があって、その工場すべてに調整して、石炭の代わりに屋根葺きの下地に使われる黒色のルーフィングを一斉に燃やしたとのことです。つまり、日常の操業では出ないような黒い煙を出していたんですね。さぞかし町の人、あるいは周辺の町の人はびっくりされたんではないかと思います。
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さて、「早春」の映画では、そのモクモクと黒煙が上がる風景とともに、三石での池部良の生活を描いた3つの場面が出てきます。

まずは、池部良が三石の工場の事務所で働いているシーン。
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古くからそこに勤めている、おそらくは地元の人間と想定される少し年配の社員との会話も少しあります。同じ事務所内には作業をしている人が何人か映っています。

当初、僕はこの場面は三石で撮られた可能性もあるのかなと思い、三石の工場内に残っていて今も事務所として使われている古い木造の建物がありましたので、その中を拝見させてもらえればと思ったのですが、それはかないませんでした。
後日、私の書いた文章を見ていただいた大瀧さんから(アゲインの石川さんを経由して)、三石の事務所シーンは東京の撮影所でのセットであるとのご指摘をいただきました。あのような場面で、実際に三石の事務所で働いている人を使うようなことは決してしないとのこと。
「シロートは緊張して、その緊張は画面に出るものなのです。ですからあの社員は全員が仕出しです。1つ2つのシーンのために、仕出しを岡山まで連れては行けませんからね」
という大瀧さんの説明。
映画の中の、ほんのささやかなワン・シーンではありますが、プロの人たちの制作というものに対する意識の一端に触れることができ、心から感激しました。(続く)
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by hinaseno | 2012-09-11 08:37 | 映画 | Comments(0)